Yume

ハンナ・ギャズビーのナネットのYumeのレビュー・感想・評価

4.2
私のスタンドアップコメディの出会いは昨年で、紹介されたジミー・カーを見たのが初めて。
その後Netflixで『リッキー・ジャーヴェイスの現実主義』を勧められ観るのだが、どちらもなんの予備知識を持ち合わせていなかった私にはイギリスの笑いと彼らの持つ毒のあるジョークについていけず、途中で投げだしてしまった。

その次に紹介されたのが今回の『ハンナ・ギャズビーのナネット』(彼女はオーストラリアのコメディアンでレズビアン)。

序盤から彼女の落ち着いた話し方には好感が持てた。

しかし、観終わった後にまさか自分がこんな感情になるとは!
まったく想像もしていない体験を経験することになる。

ハンナは前半から言う、「コメディを引退しようと思う」。
コメディを観ているのにえ?何??
彼女は続けて、物語には「始まり」、「展開」、「結末」があり、しかしジョークには「始まり」と「展開」しかないと。

「自分のレズビアンを自虐するジョークには疲れた」

今回のショーで今まで語らなかった「結末」を次々とカミングアウトしていく。
その内容はとてもショッキングなものだが、凄いのはハンナがそれまでに話したジョークをどんどんと回収し、その物語の「結末」を語っていくのだ。
ハンナは完全にその場の「緊張」と「緩和」を操り、話の伏線を回収していきながら、その場のコメディを観に来た観客、そして配信で観ているすべての人に、おそらく想像していなかったであろう話の展開で衝撃を与えていく。

ハンナの人生がどれだけ現実的にやり場のないことか知り、それを耳にすることは本当に胸が苦しかった。
しかし、彼女は同情を求めるのではなく、思考を続ける事、誰かとコネクトするために語った勇気に、今まで感じたことのない感動を受けた。

観終わった後、ハンナの語った言葉に浸り、誰かと話し、思考したいという気持ちにさせられる。

スタンドアップコメディの王道は私にはまだ分からないが、この作品は多様化の進む新時代にマイノリティが勝ち取った新しいエンターテイメントの幕開けなのだと感じる。
Yume

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