たく

まったく同じ3人の他人/同じ遺伝子の3人の他人のたくのレビュー・感想・評価

4.0
一卵性の多胎児である3人兄弟の偶然の再会から、思わぬ真相が判明していく驚愕のドキュメンタリーに引き込まれた。序盤の3人の再会が世間を賑わすハッピーなニュースとして取り上げられるいっぽうで、素朴な疑問をきっかけとして隠された謎を追っていくのが手に汗握る展開。今もなお図書館に眠る真相を示すはずの文書の存在に、組織を守るためには人権をも無視する権力の恐ろしさを感じた。人格形成の決め手となるのは遺伝と環境のどちらなのかという問いに対する答えが揺れ動くなかで、最後に示される結論は感動的。3人兄弟が育った家庭が上流・中流・下流と綺麗に分かれてるところに「明日の食卓」を連想し、一卵性の多胎児に隠された驚きの真相という展開は「本当の僕を教えて」を思い出した。

1980年に19歳で短大に入学したボビーが、登校初日からなぜか校内の人々に馴れ馴れしくされて違和感を感じたところに、実は彼と瓜二つで現在休校中のエディという青年と間違われてることを知る。事を確かめるためボビーがエディに会いに行くところから、二人の再会が世間のニュースになるという胸躍る展開となる。これだけでも十分ドラマティックなんだけど、二人と生き写しであるもう一人のデヴィッドの存在が判明することで、3人がちょっとしたスターになるまでの騒動が観てて楽しい。いっぽうで浮かれる3人の姿には危うさも感じて、彼らの現在のインタビューにエディだけ登場しないところに最初から嫌な予感がしてた。

3人兄弟の里親がいずれも一卵性の多胎児であることを知らされていなかったことに不審感を持ったことで、養子縁組を提供した機関に真相を問い詰めていくも、三つ子だと養子縁組のニーズがないという表面的な理由ではぐらかされる。ここで別の一卵性双生児の姉妹が同様に素性を知らされないまま別々の里親に引き取られた事実が明らかになり、全てが意図的に仕組まれた実験だったことが推測されるあたりから背筋が寒くなってくる。単独の出来事だと思ってたら他に同様の事例が見つかって事件の全体像が見えてくるというのは、「被害者が容疑者になるとき」も同じ構造だったね。

人の人格を形成する要因が遺伝なのか環境なのかという研究テーマが人類にとって重要と割り切ったとしても、エディ達が受けた実験は非人道的であり許されない行為。それに追い打ちをかけるようにして、あえて精神疾患のある親から生まれた一卵性多胎児を選んだことが判るあたりが辛い。劇中では、育った環境が全く違うのに趣味嗜好や仕草がそっくりというシーンが繰り返し出てきて、人格形成は遺伝の影響が強いらしいことが示される。そこから「所詮は人生に選択肢はない」という悲観的な結論が見えてくるんだけど、終盤で訪れるある悲劇をもとに、実は人格形成は育った環境による影響の方が大きく、幸せな人生を切り拓く道はあるのだという驚きの結論にたどり着くのが感動的だった。
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