Kuuta

mid90s ミッドナインティーズのKuutaのレビュー・感想・評価

4.1
昨年のゴジラキングオブモンスターズに続き、破綻した家族のテーマとしていきなりWave of mutilationを流す映画を嫌いになれるはずがない。

ジョナ・ヒルの監督デビュー作は、予想を遥かに超えた正統派な青春ドラマだった。

4:3の画面比は単なる90年代への目配せではなく、主人公のスティーヴィー(サニー・スリッチ)の息苦しい世界の窓として機能している。かっこいい先輩に憧れてスケボーを始めるが、彼は何度も転び、地面に落ちる。血を流し、自己嫌悪から自ら体を傷つけることも。

キラキラしたノスタルジーではなく、子供なりに精一杯に生きた悪戦苦闘がアクションとして記録されている。ホームレスからプロスケーターまでごちゃ混ぜな、90年代の不思議なコミュニティの雰囲気はこの映画でしか味わえないだろう。狭い画角で顔を近づけた時の緊密度の高さも印象的だった。

視界に広がりを持たせる撮影が光る。所狭しとスケボーしまくる公園の画面構成や、警官が来て一斉に逃げ出すシーンの躍動感。坂道をゆっくり下ってくる場面は、無限に続く画面の奥行きを生かし、横の狭さを悠々と超えた長回しを見せる。レイ(ナケル・スミス)に新しいスケボーを貰う場面は、画面奥の窓からの強い光がスティーヴィーの体を白く浮かび上がらせ、高揚感を映し出している。

スケボーで上手く行ったり行かなかったり。それが画面を「広げていく」映画なんだなぁと思っていたら、ラストでやられた。鏡の中の自分と向き合ってきたスティーヴィーが、初めて「mid90'sを生きた小さな自分」を相対化する瞬間、次の時代への一歩を踏み出す。この映画を撮ったジョナヒルの矜恃を感じてグッときた。

90年代の相対化という意味では、ホモソーシャルな心地よさを必ずしも肯定していない。酒やドラッグの描写は快楽から突き放され、兄の暴力や仲間内の抑圧関係は痛々しい。

スティーヴィーの性体験は、サニー・スリッチの幼い見た目もあってどこかアンバランスなものに見えたし、彼自身があの体験を経て、仲間から承認を獲得し、兄への優越感を口にする流れ、結局兄に殴られ、自分はスーファミのコードで自ら首を絞めるという展開は、すごく息苦しいものに感じた。スーパーバッドから10年以上経った今、ジョナヒルが自らの幼少期をこういう形で描き、キャリアを再スタートさせる。時代の変化が感じられて面白い。82点。
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