tetsu0615

37セカンズのtetsu0615のネタバレレビュー・内容・結末

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

見終わったあと、自分の人生も肯定したくなったし新たな一歩を踏み出す勇気を貰える…そんな爽やかな一作。

障害を持った女性の葛藤や想い、周囲の視線など鑑賞者に向けたような突き刺さる部分も含みながら、一人の女性が新たな一歩を踏み出し、様々な出会いや経験を通して成長していく過程を描いた作品
見終わったあとに残る晴れやかな気持ちと彼女の明るい笑顔が印象的だった
また、序盤での"性的"描写もストレートながら性という人間の根元的な欲を描くことで障害者の視点も押さえつつ、誰にでもありそうな普遍性を担保してくれているようにも感じた。
主人公ユマのが見せる、憂いに満ちた表情から物語が進むにつれての変化、その母親の過保護すぎる一面も強烈だが、その実娘への愛情もあるゆえなのでそこの演技、後半の向き合い方も良かった。
その他編集長のキッパリとした態度やユマが出会うマイやヘルパー?といったユマを新たな世界へと優しく導いてくれるキャラクター達もとても魅力的な作品だと感じた。




脳性⿇痺により手足が自由に動かせない主⼈公のユマは親友の漫画家のゴーストライターとして働いていた。⾃分の作品を出せないこと、過保護になってしまう⺟との⽣活に息苦しさを感じていたのだが…あるきっかけが彼女の人生を変えていく…

冒頭は彼女の今現在を描いている。過保護な母の介助を少し煩わしく思っていたり、ゴーストライターとして活動することで自己表現の場を奪われている彼女の思いが暗いトーンの画造りと彼女の表情から滲み出ている。彼女をゴーストライターとして使っている友人の外面の良さと彼女に対する態度の使い分けの感じとか秀逸。

彼女の転機になるきっかけは捨てられていたアダルト漫画だ。少女漫画ではゴーストライターをしている作風と被るが、これなら…という部分と過保護な母親の元では出会わなかった性への興味が彼女を掻き立てたのかもしれない。

ユマが漫画を持ち込む相手となる編集長。車イス姿のユマを見て一瞬視線が逸れるものの、すぐに漫画家として一人の女性として普通に相手をしてくれている感じが良い。彼女の「経験がないと~」というようなセリフからユマは、性について学ぼうと動画を見たり、一人で街に飛び出したりする。こういうある一言をきっかけにアクティブに行動出来る彼女の姿はある意味羨ましい。

夜の街で彼女にとって大きな出会いとなるのが、夜の世界で働くマイや介助士のトシとの出会いだ。マイはユマに優しい視線を向けながら一人の女性として彼女と交流を深めていく。アダルトグッズのショップや洋服屋…そこで見せるユマの生き生きとした表情が良い。障害者とのセックスに関する質問に答える夜の世界に生きる大人の女性"マイ"がいう台詞「変わんないよ。強いていうなら当たりが強いかな。社会的なストレスとかなのかな」と言った。この一言で障害を持つ人と健常者がなんら変わりの無い人だということを改めて伝えると共に障害を持った人の苦悩もその一言で伝えるのがこれまた良い。

ユマが外に行く理由が仕事に行くこと(としてウソをつく)しかなかったのが、これまた過保護な母親の縛り付けだったのかなと。
その嘘がバレていく中での、夜の街で飲み遊ぶユマとその母親の、動と静・ネオンと質素な対比の画が素晴らしい。

嘘がバレ、隠していたものを見つけた母親との激しいケンカ。過保護な母親に対する鬱憤を弾けさせるユマ、ユマを大事に思っているあまり(多少度が過ぎている部分も多い)変わらないでいてほしい母親、お互いの強い思いがぶつかるシーンは見ていて苦しくなるようだ。

結果的に、そのケンカを境にスマホを管理されるなどより縛りが強くなった結果、ユマは家出をする…
そんな折に、ユマに手を貸しつつも「納得したらちゃんと家に帰ること」と諭すマイのセリフ。色んな経験と彼女への優しい目線が滲み出る雰囲気が素晴らしい。
トシの家でお世話になるユマ。恋愛的な展開になるかなと思いきやならない。これはそれで良かったと思う。ここで恋愛ドラマに移行するのは違う気がする。
ユマは父親を探しに旅をする。そこで知る父の死、双子の姉の存在…ここでその双子の姉に会いにインドにいくという大胆さ!(冷静に考えれば、パスポート持ってたんだ?て言うか費用大丈夫だったの?トシくんもフットワーク軽すぎない?)この大胆さは行動力がスゴいということと、映画のマジックということで…

姉妹での話、父親のエピソード、そしてこれまでの旅を通して宿で呟く「私で良かった」というセリフと家に戻ってからの母への優しい一言「ただいま」彼女が旅を通して新たな一歩を踏み出し成長したことを感じる素晴らしい流れだ。

ラスト、再び漫画雑誌の編集長に会いお礼を言う彼女の誠実さも良いし、ラストカットでの明るい日の中を笑顔で進む彼女の姿で劇場を爽やかな気持ちで去ることが出来た。

障害を持った人、そういった事象は関係なく窮屈さを感じてる一人の女性が今までの自分の世界から羽ばたき、新たな出会いと経験を通して、成長していく様を描いた素敵なドラマだった。
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