実に「後味の良い」作品。
とはいうものの、劇中は白人による黒人への強烈な人種差別の連発である。苦味しかない。
差別される黒人。その黒人に雇われ、不本意ながら運転手を務める白人。彼もまた元々は黒人差別思想の持ち主。
互いに反発し、互いの考えを理解も出来ず、時に相手を批判し、怒り、しかしアメリカ南部地方への旅を通して互いを意識し、自分を省み、徐々に共鳴し、内なる思いを発し始める。
ケンタッキー・フライド・チキンにまつわる描写。町外れのレストランで古びたピアノを演奏する描写。
美味しいのだから食べればいい。美しい音楽なのだから聴けばいい。楽しいのだから笑えばいい。
そこに出自も人種もない。人間という共通点があるのみ。
忍耐の塊のように抑制した存在から、次第に感情を見せ始め、遂には雨に打たれながら奥底にある感情を絶叫してしまう黒人男性。
マハーシャラ・アリの演技には、小さな一点から波紋のように広がっていくような、重厚な感動を与えて貰えた。
ロード・オブ・ザ・リングのアラゴルンに魅せられた身としては、ヴィゴ・モーテンセンの丸い顔と出っ腹と喧嘩っ早いキャラクターは悶絶させられてしまったが、実に魅力的だった。
そしてリンダ・カーデリーニの可愛さ。彼女の最後のセリフが実に微笑ましくて、この映画を観て良かったという心地にさせてもらえる。
登場人物たちのハグを見て心が温まった。2019年アカデミー賞で作品賞と助演男優賞を獲得したことに何の不思議も感じない。素敵な作品だった。