湯林檎

グリーンブックの湯林檎のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.4
新年明けましておめでとうございます🌅🎍
昨年は生活環境がガラリと変化してなかなか映画を観ることに時間がかけられないですがこれからもぼちぼち観ていこうと思います🎬


そしてずっと前より観たかった今作をようやく今になって鑑賞。。。
第一の感想はストーリー進行が良くて分かりやすい!
どうしても実話物ましてや人種差別を取り扱った作品は少し説教口説かったり残酷だったりすることが多いけど、今作は主役2人のコミカルなやり取りと60年代アメリカ(南部)の状況をバランスよく描いていて良かった!
また、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)とその演奏仲間で繰り広げられるトリオの音楽もgood👍

とは言っても心悲しい現実として印象に残ったシーンがあった。ドンが劇中に"黒人のクラシックピアニストなんて"とトニーに言うシーンがあるのはどんなに才能に恵まれていても有色人種が故に出来ない(当時出来なかった)こととして鮮明に脳裏に焼きつけた。
日常的に音楽を聴いていても、ジャンルごとに著名なアーティストが人種や民族がある程度固定化されていることは暗黙の了解で知っていたから余計に。。。
史実、ドンはクラシック音楽の影響を受けたジャズも正真正銘のクラシック音楽も作曲しているし何より裕福で知性と音楽の素養共に抜群である。羨ましいくらいに才能に溢れているのに「私が完全な黒人じゃなくて、完全な白人でもなくて、完全な男でもなかったら一体私は何者なんだ?」と投げかける。この世にはどうしようも無い現実があっていつもそれに立ち向かって皆生きている。
そんな中、トニーの言葉が救世主からの導きのように心に響いた。「誰だってベートベン(ベートーヴェン)やジョーパン(ショパン)はみんなが言うような他のピアニストのように演奏することはできるけど、あんたの音楽はあんたにしかできない」あくまでトニーはクラシック音楽にこだわりがないからこそ言えた言葉なんだろうが案外無知の他人からの言葉が考え方を変えることもある。
確かにクラシック音楽は再現音楽でありこれ以上音楽理論が大きく変化して19世紀や20世紀前半の頃のような革新的な楽曲が生まれるとも考えにくい。
私がクラシック音楽を日々好んで聴いているのも演奏家による解釈の違いや生演奏でのコンサートホールの響きを体感することが何よりも快感だからだ。言ってしまえば音楽そのものに目新しい何かを発見するために聴くことはほとんど無い。
安定と規則性を求めるには良いものの自分のアイデンティティを表現するには不向きのジャンルとも言えるだろう。
音楽がメインの題材というわけでは無いのにクラシック音楽の限界と見えない側面について薄々と感じてしまったのが何とも不思議な気持ちである。

しかし、仮にドンが白人に生まれて至ってごく一般的なクラシック音楽のピアニストととして道を歩んでいたとしても現在の功績ほど活躍できていたかどうかは不明だし、他のアーティストでも同じだと思う。
結局今置かれている状況がベストなんだと思うと少し不公平な感じもするが、やはり"世の中は複雑"であるのである程度割り切ることが大切だと感じる。


正月に相応しい脚本と出演者の演技と演出どれを取っても一級品の傑作だった。
湯林檎

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