ザリくん

ジョーカーのザリくんのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
バットマンシリーズ(?)でこれを一番最初に見てしまったから、ホアキン・フェニックス最高!というヒヨコの刷り込みをされちゃった。

ジョーカーというダークヒーロー誕生譚の仮面を被った、70年代アメリカを舞台に貧困社会への怒りと不満をぶつける劇薬ドラマ。そして世界が不景気でセンシティブになる度に面白さが増す呪いが掛かった映画。貧乏でセンスのないピン芸人って世知辛れぇな〜…

悲壮感漂う世界観全体を包む重々しく美しい映像表現。随所に喜劇音楽を流す対位法による頭に残る不協和感。地のストーリーと妄想の境界が曖昧な映し方。
そして特殊境遇を抱えた主人公の'全て'を演じ切るホアキン・フェニックスの役作りとエネルギー。

きちゃない町ゴッサムシティの下で、笑う奇病に犯され他にも諸々の精神病気質の見られる主人公。それは病気の母親の面倒を見ながら慎ましく暮らす(ガチで)売れないコメディアン、アーサー。彼に吹き荒らす時代の冷たく暗い風の悪い流れにより、'笑わせる'とは対極の爪痕残しで存在価値が出来ていく、転々…

アーサーは人を殺すとき、あるいは自分や目の前の現実を殺す(否定する)とき、踊る。
劇中で幾度も披露されるこのカタルシス・ダンスは妙な高揚感を醸し出す。厨二病なので階段降りながらやるアレは当然真似したくなっちゃった…

社会的・経済的に孤立した人がテロ犯罪を起こすニュースを見る度に、不景気リモート社会になった今、自分含めた誰もがいつその無敵の立場に転落するのか他人事では見られないような恐ろしさがある。
しかし映画をわざわざ金払って見てる時点でその考えも欺瞞なのではといつまでも心に残る…

以下ネタバレ注意

いわゆる現実妄想混合型の展開で、かなり好み。だって「ん?」て思うところ全部アーサーの妄想で片付けられて便利だから。

私はお笑いテレビショーの部分は全部妄想だと思っています。自分を殺して踊っているし。全て本音を語る世界なので精神世界のように見える、だからストレートで非常に分かりやすい。
善悪も笑い悲しみの基準も自分の主観で決める、そう言い切った瞬間彼は主人公(アンチヒーロー)になれた。

結局やってることは不満を持ってる人達を蜂起させてテロに走ることで、ファイトクラブも同じことやってるんじゃ?と思った。これ以上硬貨な死を望むか高価な生を望むかの違いだけ…

ラスト病院で走っているのは…ジョーカーなのか…ジョーカーになりたい一般人なのか…それとも実在する誰かになるのか…
悶々と考察する自分たちを道化師が何処かで笑って見ている気がする。
ザリくん

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