つかれぐま

ジョーカーのつかれぐまのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
10/4@大泉#1

「理解できないさ」

理性では受け入れがたい着地にもかかわらず、凄いものを見たという充足感が圧倒する。

感性が理性を封じる体験。
どこまでも美しく危険すぎる傑作。

ボコられて地を這うアーサーの姿に"JOKER"のタイトル。同じ街ゴッサムを上から見下ろすようだった「ダークナイト」とは真逆に、街を這いつくばる本作に相応しいオープニング。セレブなノーランへの挑戦状に見えなくもない。

隣人の彼女との恋を、明らかに妄想と分かるように見せて、他のエピソードもアーサーの妄想では?と解釈できるように作った構成が素晴らしい。アーサーの脳内の「あやふやな境界」を体感するとともに、そもそもジョーカーは虚言キャラクターだったこととも整合していた。

アーサーが覚醒してからは、音楽も含めてとにかくジョーカーがカッコよく美しい。いつまでもこの作品が終わらないで欲しいと多幸感すら感じたこの時が、まさに感性が理性を封じた瞬間だった。

ラストの病院で、ジョーカーは言う。

「理解できないさ」

これはジョーカーがメタ的に観客に言ったものでは、と解釈した。アーサーに感情移入し、その苦しみを共感した「つもり」になっている観客に、ジョーカーは冷や水をぶっかける。

(所詮あんたらに俺の苦しみは)「理解できないさ」

これは観客を現実に引き戻す解毒剤。
白い廊下の赤い足跡と合わせてトラウマ確定のラストシーンだった。