おがさ

ジョーカーのおがさのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.7
超絶閲覧注意の怪作。少年犯罪のニュースとかで「犯人はアニメやゲームの悪影響を~~」みたいな話を聞いていつも「んなあほな」と思っていたけど、この作品にはその影響力があるように思う。

DCのヴィランものというとスーサイドスクワッドを連想するが、ああいうヴィランがヒーロー行為をするものではなくて、救われない人が救われない目にあって闇に落ちる映画。作中でハッピーな出来事は1回も起こらない。(強いて言うならアーサー自身が本当の自分になれたことくらいか。ジョーカーになったあとの落ち着き方はゾッとする。)その「救われない目」というのも、現実世界で貧富の差が広がっていく情勢からすれば現実でも起こりうることなので、こりゃ他人事じゃねーなと思ってしまう。そして終盤にかけて、主人公の心のよりどころだった人たちが畳みかけるように順に消えていく様が、闇落ちまでのカウントダウンのようで観ていてつらかった。

また主演ホアキンフェニックスの演技が正に怪演。大声で笑っているのに悲しげな表情をしている様や、20kg以上減量したというガリガリの体もは見ていて痛々しかった。序盤で、悲しいのに必死に笑おうとして口角が上がったり下がったり往復している様が、必死に闇落ちるすまいと正気にしがみついているようで、しかし結局その口角が上がって笑顔になった先が真の狂気だったという点がなんとも皮肉。

ヒースレジャー版では胡麻化されていたように、純粋悪であるジョーカーについては過去を語ること自体ナンセンスだと思っていた。悲しい過去なんかがあると毒気が薄れてしまうので、なんならリアリティ度外視で闇から突如生まれたくらいの設定にしたほうがよいのでは位に思っていた。しかし本作はそんな素人の考えを置いてけぼりにして、圧倒的な悲愴感とリアリティをもってジョーカーという純粋悪の影をより色濃くしたように感じる。

ダンサーインザダークとか、ファニーゲームとか、見ていて気分の良くない映画は他にもたくさんあるけど、この映画の一番やばいところは共感できてしまうところ。そしてその共感を以て視聴者の心中にアクセスしてきて、誰も持っているであろう「ジョーカーの芽」みたいなものの存在を気づかせてくるところ。逆にこれが警鐘になって留まる人もいれば、本当に芽吹いちゃう人もいるかもしれない。
ヒースレジャー版ジョーカーに悪影響を受けた人がいるとすれば「感化された」という感じなんだろうけど、今作のジョーカーは突き落としてくるタイプ。そして後者のほうが影響範囲が大きいあたりタチが悪い。

すごい作品。だけど最初に言った通り、閲覧注意。元気な時に見てほしい。ガッポガッポ儲かっちゃって仕方ないときとか。まじで。
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