「善悪も正義観も全部主観だ。
人は見たいものを見て信じたいものを信じる。汚くて都合の悪いものには蓋をする。
そして何食わぬ顔をして暮らしているんだ。
おれもこの世間どっちが狂ってる？」
アメコミ映画の皮を被った怒りと悲哀の物語。
トッドフィリップス監督は70年代の犯罪映画やキャラクター主体の作品を作りたいと構想していたが昨今のアメコミブームで、アメコミ以外の作品は企画が通りにくい為キャラクターを借りたと話しています。
監督はジョーカーを深くまで理解し今までとは違うアプローチで描くことに成功しています。
主役のホアキンフェニックスは狂気の沙汰と呼ぶに相応しい迫真の演技とガリガリに減量した体型で複雑なアーサーという人物像を作り上げていた。
独特な笑いには悲しみと怒りが混在しておりまさしくジョーカーそのもの。
歴代のジョーカーとは違う全く新しい演技。
原作のコミックではジョーカーは妊娠中の奥さんが事故死し、犯罪に加担した結果失敗し薬品工場のタンクに落ち危険な薬品の作用で身体が変色し度重なる不幸で常軌を逸してしまいジョーカーへ変貌を遂げています。
今作では精神的な障害を抱えた社会のどん底にいる孤独な男アーサーが社会の冷たさや誰も救いの手を差し伸べてくれず、一方的な差別な格差を受け世の中に対する怒りや諦めがドス黒い狂気を生む過程を生々しく描いています。
薬物工場のタンクに落ちるのではなく狂気の渦に堕ちてジョーカーは生まれる。
そして一番重要な今作が問題視されている理由。
アーサーが殺人を犯すシーンを美しく英雄的に演出しており内に秘めた怒りや狂気を解き放てと言っているようにも受け取れます。
今作は犯罪を助長しているのではなく、悪を生む原因を訴えている。
犯罪、暴力、虐待、差別、格差、憎悪、悪意。
負の感情はどこから来るのか。
社会の歪みだろうと僕は思います。
貧富の差は広がり社会的弱者の人達は困窮した生活を余儀なくされている。
そして積もり積もった行き場のない感情は収まらなくなり爆発する。
無差別テロや京アニの放火事件も同じです。
一線を超え彼らはジョーカーになってしまった。
次のジョーカーを生まないために僕たちが出来ることは救いの手を差し伸べることだと今作は強く叫んでいます。
そして誰もがジョーカー予備軍だと言っている。
狂気に飲まれないために人はより輪になって繋がることが重要なんです。
