Inagaquilala

長いお別れのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
3.8
「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督の新作。前作までオリジナル脚本で勝負してきた中野監督だが、この作品は中島京子の同名小説が原作。どこまで中野監督ならではのオリジナリティを見せているかが焦点だったが、無難にこの原作物をこなしていた。主要な登場人物は、認知症でボケが進む父(山崎努)と母(松原智恵子)に2人の娘(竹内結子、蒼井優)。原作では3人姉妹となっているのだが、ここはドラマをしっかりさせるためか、2人姉妹としている。基本的には、70歳の父親の誕生日に集まった母と娘たちが、認知症となった父親を何年にもわたって看取っていくというストーリー展開だ。

前作の「湯を沸かすほどの熱い愛」でもそうだったが、とにかく、この4人のキャスティングが素晴らしい。とくに認知症が進行していく父親役を演じている山崎努は主演男優賞ものだ。「モリのいる場所」でも見事な老人役を演じていた山崎努だが、この作品ではさらに認知症という難役が加わっているが、鬼気迫る演技を披露している。対照的な2人の娘を演じる竹内結子と蒼井優もいい味を出している。

あえて父親の最期を映さない演出も冴えている。あくまでも娘たちの視点を通して、この作品を描いているからだ。この中野監督のブレない視点の設定が、前作同様、観る者の心を動かす。しっかりと練られた絵コンテのもとで撮影しているのか、日常的な家庭の場面でも、しっかりとした絵づくりができている。このディテールにまでのこだわりが中野作品の特徴のようにも思える。とくに驚くべきドラマがないのにもかかわらず、エンドマークまで確実に観客を連れていく中野監督の手腕は、若手監督の中でもピカイチかもしれない。次回作は、また監督自身のオリジナル脚本の作品が観たい。
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