とえ

パリ、嘘つきな恋のとえのレビュー・感想・評価

パリ、嘘つきな恋(2018年製作の映画)
4.0
面白かった!

これまで「恋は1日限りでいい」と思っていた軽薄男のジョスランが、たまたま母の遺品の車椅子に乗っている時に、車椅子の女性 フロランスと出会う

そのフロランスに一目惚れしてしまったジョスランは、自分も下半身が麻痺していると偽るようになり、本当は歩けると言い出せなくなってしまう…

そんなジョスランに対して
なんで、本当のことを言わないのよ!
と思いつつも、彼の気持ちも分かる気がした

もしもある時、とても素敵な人に出会ったら、その人に良い人だと思われたくて、いろいろと盛ってしまうことがある

本当はよく知らないのに、話を合わせるために知ったかぶりをしてみたり、いつもよりメイクを念入りにしてみたり、いつも着ないような服を着てみたり

中には、年齢や、学歴や、経歴を詐称する人もいるだろう

ジョスランの場合は、
下半身麻痺のフリをすることだったのだ

そもそも彼は、いつも誰かになりすまして女性に声をかけていた

かわいい女性を見れば、その場に応じてアフリカ人のフリだってするような人だった

そのまま気が合えばベッドインして、翌日にはバイバイしていたような尻軽の彼が、フロランスと出会って、
下半身麻痺のフリをするんだから皮肉な話だ

しかし、私たちが素敵な人と出会って話を盛っても、あっという間に化けの皮が剥がれてしまうように、ジョスランも嘘をつき続けることが辛くなってくる

いつものジョスランだったら、誰かのフリをすることに心が痛むなんてことはなかったのに、フロランスに対しては、心が痛くなるということは、それだけ本気だということなのだ

これはビックリなのだけど、軽薄男のジョスランは、50歳になって初めて本気の恋をしたという話なのだ

さらに、自分を偽って相手を口説くということは、愛する人を騙し、傷つけるということに初めて気づくのだ

その話に説得力があるのは、
そのフロランスが、女性から見ても、とても素敵で魅力的な人だからだ

バイオリニストのフロランスは、キラキラとして、輝いている

ジョスランにはもったいないぐらいの女性だ

そんな彼女だからこそ、ジョスランが嘘をついて近づいた挙句、本当のことを言ったら、嫌われて彼女に会えなくなってしまうことを恐れる気持ちもよく理解できるのだ

50歳のジョスランは、ビジネスで成功し、お金を持っている

夢のような高級アパートに住み、弾けもしないグランドピアノをインテリア代わりにし、ポルシェを乗り回し、女性の趣味を知り尽くしている

しかし、ジョスランからそんな様々な仮面を引き剥がした時、本当の彼はどこにいるのか

ジョスラン本人には何もないからこそ、日頃から他人になりすまして女性に近づき、本気になることを恐れるのだ

その一方で、下半身麻痺という障害を持ちながら、音楽に、スポーツに、自分の好きなことに夢中になってイキイキとするフロランスは、対照的だ

だから、ジョスランは自分にないものを持っているフロランスに恋をしたのだろう

そんな二人は出会うべくして、出会ったのかもしれない

実際のところ、フロランスの方がジョスランよりも何枚も上手で、手の上でジョスランを転がしているのだけど、そのぐらいの方が、彼らはうまくいくに違いない

そんなジョスランを見ていると、いい歳をして…と思ってしまうけど

人が恋するときは、いつまで経っても大人になれないものなのかもしれない
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