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第三夫人と髪飾りのkassyのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
3.7
試写会にて。

19世紀の北ベトナムの秘境。富豪の元に第三夫人として嫁ぐことになった14歳のメイ。
女性は男の子を産まなければ価値がない、嫁がなければ意味がないという時代。
ベトナム出身の女性監督が、様々なメタファーを用いながらアーティスティックにベトナムの昔の女性たちを官能的に描き出す。

原始的な生活の中で描かれる、生と死と女性。
あえて言葉少なに、言葉ではなく情景で心情や人物を描いているところがかなりセンスが良い作品である。
物語は監督の祖母や曽祖母の体験をもとに製作されているのだが、
まだまだ映画文化が浅く規制などもあるベトナム本国の公開時には、少女(主人公メイ)に対する性的表現やベト族の文化的差異など難癖をつけられてなんと公開4日で上映禁止になったとか。それでも上映出来ただけでも進歩、ということらしい。

映画の舞台になっているチャンアンは世界遺産にもなっている大変風光明媚な場所で、景色を見ているだけで癒されるような場所だが、そこで巻き起こるのは、一夫多妻の中の奥さんたちの血みどろの戦い・・・かと思いきやそうではなく、第一夫人や第二夫人にとっては娘ほど年の離れた第三夫人のメイを、二人は色々な腹づもりもきっとある中で、生活のことや性のことまで優しく教えてくれるのだ。「男の子を産まなければ」という強迫観念の中での闘争心はあるものの、厳しい生活の中で協力し合わなければ生きていけなかったという事らしいのだが、ある意味カルチャーショックを受けた。特に第二夫人の存在は、憧れの存在としての立ち位置も色濃い。

また、この時代に自由恋愛をしたくても出来なかった人々の顛末の悲しさには胸が詰まる。たった100年前には嫁がなければ人間としての価値が何もなかったのだ。でもこの監督はそんな時代でも、本当は色んな欲望があって、色んな形の愛があった事をきちんと物語に入れ込んでいる。
昔を描いているが、そこが今の時代に作る意味なのだろう。

ニューヨーク大学の映画学科で出会ったスパイク・リーがバックアップをし、トライ・アン・ユンが美術監修として参加しているこの作品。あまり触れてこなかったベトナムの新しい一面を知ることができる作品なのでぜひ才能をご堪能ください。
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