マカ坊

運び屋のマカ坊のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.5
沁みる…!
ほんとにこのイーストウッドという人の持つ天性のチャームには人の心を捉えて離さない何かがある…

実話をベースにイーストウッドの実人生も反映しまくってるとの事でヤンチャなおじいちゃん感満載なのも良いし、編集のテンポとか、ここぞという場面の印象的なショットとか、いちいち「あぁ良い映画観てるなぁ」と本当にため息が出るほどの映画的快楽が味わえる。

あとやっぱり素晴らしいのは、黒人へ「ニグロ」と呼びかけてしまい訂正されるシーンや冒頭の移民の兄ちゃんとのやり取りなどに象徴される(グラン・トリノでもイタリア系の床屋のオヤジとの人種差別的な罵り合いシーンで見られた)「過剰なポリコレに対するアンチテーゼ」をさらりと物語に組み込む点。

もちろん人種差別等は当然許される事ではないし、時代遅れな老いぼれを演出する意味で挿入されているのかもしれないけれども、言葉の規制のみが先行して肝心の実態が伴っていないような現状に対してのちょっとしたジャブを軽妙に放ってくるのは流石。

漫然とした「絶対的な正しさ」のみを求める社会ではなく、間違っている者同士が罵り合いながらもお互いを相対化していく事で結果として各人の違いを認め尊重していけるような社会。この映画では逆説的に映し出されるそのような社会を描く事で、イーストウッドは改めてコミュニティの再定義を図っているのではないだろうか。(トランプを擁護したと叩かれているのはこの辺りの考えが誤解されて伝わっているからだと思う。)

何はともあれ90近い年齢で3pまでこなすそのエネルギーに圧倒される今作(ヨボヨボ歩きも演技で実際はしっかり歩けるらしい)。
まだまだこの人の映画が観たい。そう思わせるのに充分な、今年上半期ベスト5に入る傑作だった。
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