ボブおじさん

ちいさな独裁者のボブおじさんのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
3.8
第二次世界大戦末期。敗色濃厚のドイツ。部隊を脱走したヘロルトは逃走の途中、道端に捨てられた軍用車両の中でナチス将校の軍服を発見すると…ドイツ敗戦直前の混乱期に起こった実話をもとに、偶然から権力を手に入れ支配者へと暴走していく若者の豹変を描いた衝撃作!

取るに足らない若者が、拾った制服をまとったその瞬間から人格が変化していき、やがて怪物になっていく。実話を元にした歴史スリラー。

こんな荒唐無稽な話が本当にあったのか?
と思ってしまうが、人は人物や思想ではなく、その地位や権威に従うというのは、何も戦時下のような特殊な状況だけの話ではない。
現代の我々も職場や学校の中で日常的に経験している。

制服や肩書きが双方の力関係に大きな影響を及ぼすという話は、悪名高き心理実験を元にした人格破壊映画「es[エス]」や「エクスペリメント」でも描かれている。

話の前半、嘘のような本当の話として思い浮かんだのは「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」だ。作品のテイストは全く異なるが、どちらも二十歳に満たない若者が制服に身を包み、巧みな話術と堂々たる態度で並み居る大人達を手玉に取る。

どちらの作品も倫理的には、同調できないにも関わらず主人公に感情移入し、正体がいつバレるかとドキドキ・ハラハラするクライム・サスペンスを見ているような感覚に陥入る。

ところが最終的に行き着いた結果が大きく違う為、後半の印象は全く異なり後味は悪い。

当然ながらエンターテイメント作品にはなりえず、人間の愚かさを感じると同時に、途中までとは言え、この怪物に感情移入してしまった自分に嫌悪感を覚えた。


2019年10月劇場にて鑑賞した映画を動画配信で再視聴。