塔の上のカバンツェル

ちいさな独裁者の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
4.0
ドイツ映画。実話。

第三帝国末期、名もなき脱走兵が偶然から将校の軍服を手に入れたことから、アシェンドルフ収容所での虐殺や数々の殺戮に手を染めていくー…。

劇中のヘロルトは手にした権威を最大限、悪事に使っていくのだけれども、基本的に状況の流れに身を任せるだけ。
だけれども、弱者や虐げられる側の人間に、殺戮に加担させ、自らの側に引き込む、その手口はシステムの縮図であり、彼は独裁者のメタファーであり、無言で状況を黙認する一般国民の多数派の代弁者とも言える。

たかが21歳(!)の若い脱走兵ヴィリー・ヘロルトの口車に、いい歳した高級将校たちが我先に擦り寄っていく、"将校"という権威が持つ、その社会上の暴力性と絶対性を、主人公に感情移入や一方的な憎しみすら描けない2時間だった。

この手の映画は、"ナチス"、"ヒトラー"、"アドルフ"、などなどマーケティング上からお決まりのフレーズが並ぶけど、今作の『ちいさな独裁者』という邦題は、権力の縮図を表す上でメッセージ性を損なってはいなくて良いと思います。

ただ数ヶ月前から海外の予告編で予習していたので、いざ観始めてたらカラー版で少しビックリした。
本国版はモノクロ撮影で上映されているので、Blu-rayには白黒verも入れて欲しいなぁ…。

自重しなきゃと思いつつも、独空軍野戦師団の青い制服が映画で描かれることはそこまで多くないので、そういう意味でも貴重な作品。

広告で"ナチの軍服"という触れ込みだけど、細かく言うなら彼の着ている制服は空軍の将校服であって、SSとかナチ党直属の組織の軍服ではないです。