氷

ウエスト・サイド・ストーリーの氷のネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

ダンスシーンめっちゃいい、音楽めっちゃいい、テンポや画面の演出もすごくよくて飽きずに見られる。
っていう大前提に、さらに脚本は大分昔の物、しかも”異国のスラム街の移民問題も含めた話”っていう現代日本人には中々理解できない価値観という条件まで踏まえた上で、それでも「主人公カップルに1ミリも共感できね~!なんじゃこのストーリー…」って思いながら帰ってきた。

でもレビュー書くために色々感想考えてたら、この話は可哀相なカップルの悲恋ではなく、スラム街で育った知識や考える力のない(考える方法すら教われなかった)子供たちの悲劇として描かれてるんじゃないかと思った。
作中でも多々表現されるように、この映画の子供たちはみんな酷い境遇で育っていて、しかも映画開始時にはその場所すら奪われそうになっている。
「いくらなんでも考えなしすぎるでしょ…」と思うような行動を取るキャラが沢山いるけど、そのほとんどが子供たちで、しかもその子達には多分冷静になって物事をゆっくり考えられる時間も余裕も、なんなら冷静になる力すらない。

一見まともに見えるトニーすらムショで一年過ごしてやっと変わることが出来て、そのようやく手に入れた冷静さすら映画後半にはあっさり失ってしまう。
マリアに至ってはラストの「銃の撃ち方を教えて!私はあなた達が憎いから皆殺せる!」と叫ぶシーンが露骨なくらいに彼女の無力さや、今まで散々描かれてきた子供たち皆の哀れさを現していると思った。

一見彼女の愛の強さを見せつけるシーンに見せかけて、結局彼女は銃の撃ち方を誰にも教えて貰えず威嚇射撃すら出来ずに終わる。
トニーに縋り付いて泣き、とうとうジェッツのメンバーにすら哀れまれ「触らないで!」と拒絶するが、結局シャークスのメンバーにあっさりと宥められてしまう。
自分ではトニーの遺体をどうすることも出来ず、ジェッツやシャークスが(出棺のような敬意を払った形ではあるが)彼を連れて行ってしまう。

何も教わることが出来ず、自分で考えることも出来ず、ただ勢いのままに行動してしまう。そうするしかない。
この映画の「なんだかなあ」と首を傾げてしまうシーンの裏側にはつねにそういう普通の生き方が出来なかった子供たちが藻掻いていた気がする。

正直見終わった直後は「ストーリーはまあミュージカルだし評価外ってことで…」って思ってしまったが、そういう穿った見方をするとなんだか妙に纏まっていて腑に落ちるような気がする映画だった。
ただまあ「捻くれ過ぎでしょ、キモ…」って言われると「それは…そうなんですが…」って返すしかない。
氷