Yoshishun

きみと、波にのれたらのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

良い意味でも、悪い意味でも、過去の湯浅作品と比べて普通の作品。

最近観た『ねこぢる草』、人気原作を完全アニメ化した『夜は短し歩けよ乙女』など、従来のポップでありながら躍動感と毒気のある映像表現が皆無のため、残念ながら湯浅監督である必要性を感じませんでした。ただパンフレットを読んだところ、今回のようなシンプルなものを望んだのは監督自身だそう。ある意味新境地なんですね。

女性サーファーのひな子と男性消防士の港によるバカップルストーリーから物語は始まり、カフェ、サーフィン、高台、キャンプなど、リア充生活を満喫する二人。ところが「一生一緒にいる」と約束したにもかかわらず、何も言わず波乗りにいった彼氏は、流された人達の救助の最中に息を引き取ることに。最愛の人を失ったひな子は憔悴しきり、波に乗るのをやめてしまう。そんなある日、彼女はコップに映る小さな港に驚く。周囲には見えないせいで、ひな子の行動に戸惑いを隠せない人々。それでもひな子は久し振りに会えた港との時間を大切にする。同じ頃、ひな子の住む街の不良たちは、廃墟と化し立ち入り禁止となっていたビルから花火を打ち上げる計画を練っていた。

本作の大きな見所は、従来のようなファンタジー演出の光るクライマックスよりも、実は序盤のリア充パートにあると思います。日常における行動の数々の描写がやけに凝っていて、映像としてはかなり見応えがあるかと。コーヒーの淹れ方然り、卵焼き然り、更には自転車走行といった当たり前に経験する多くの事が面白い視点であったり、実写では出せないアニメならではのリアリティーを出していました。

また、今回は声優がほぼ若手役者で固めてあり、監督の長編デビュー作『マインド・ゲーム』を彷彿とさせる。主演の川栄李奈、港の後輩であるわさびを演じた伊藤健太郎は中々で、港の妹である曜子を演じた松本穂香は最強のツンデレとも云えるキャラクターを好演。しかも面白いことに主要キャストが4人とかなり少なく、その分4人の関係性や恋愛模様を理解しやすい構成でした。

また、終盤の波乗りから二人の本当の別れまでのシークエンスは素晴らしく、それまで波を恐れ、また港の死を受け入れられなかったひな子の葛藤が消え去り、今と向き合うことを選んだ姿に涙腺が緩みそうでした。1年前の投稿を読むのもどうかとは思いますが、それまでの港との交流があったからこそのあの涙は心苦しくも、とても鮮やかに見えました。

そんなエモい展開を見せるにも関わらず、どうにも過去の男の事が忘れられない自立しそうでできない女性像がラストで描かれてしまったことが残念。プロトタイプ化されてしまった女性像をまた同じように描いても何も心に残りません。

また曜子はひな子を毛嫌いしていたのに、突然仲良くなったりするなど、展開としてもかなり不自然な点も見受けられました。

そして、本作の1番の失敗は、港役の声優でしょう。GENERATIONSとかいうEXILE一味の1人・片寄涼太が務めていますが、これがまあ酷い。棒読みが凄まじく、死んでからは台詞も少なくなったのでまだ耐えれましたが、序盤の調子がずっと続いていたら地獄のような時間を過ごしていたかもしれません。ファンには申し訳ありませんが、このキャスティングだけは受け付けませんでした。

そして賛否両論となっている主題歌。実は劇中でも重要な役割を果たすのですが、嫌というほど流れるし、歌ったことで港が浮かび上がれる時間もわからないまま。主題歌およびGENERATIONSのゴリ押しにしか思えませんでした。グループとかにはせずに、映画の世界の中だけで歌われるようなものにした方が良かったと思います。どうしてもEXILEがちらついて現実に引き戻されそうで辛かったです。または歌じゃなくてもBGMだけで魅せるダンスシーンもあったので、変なところで拘らなくてもと思ってしまいました。

とまあ、散々言ってきましたが、やっぱり駄作とまではいかないと思います。凝ってる演出も沢山あるので、そこに注目してもらえれば中々楽しめると思いますよ。とは言っても、映画自体が大コケしてるようなので、観て共有できる人が少ないのが寂しいですね。大波に乗れず。
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