烏丸メヰ

アンデッド/ブラインド 不死身の少女と盲目の少年の烏丸メヰのレビュー・感想・評価

4.8
人食いの不死者に成り果て森に潜む少女が出会ったのは、目を潰され誰かに怯え続ける少年……
(邦題と日本版ポスターヴィジュアルはまったくもって駄目なので、きちんと意味のある原題『The Dark』として観て下さい)

何と美しい映画だろうか。
悲しいダークファンタジーでありながらも、異種間の悲恋でも怪物的恐怖でもなく、凄惨に悍ましい現実的な罪を背景とする物語。
個人的には、輪郭の似た名作『ぼくのエリ』に匹敵する美しさ、かつ違った質感である現実的メタファーを取り入れた作品としてかなりお気に入り。

劇中、登場人物が実際耳にしている音楽や音以外の劇伴が一切存在しない。
そんな静謐さと暗い画面、流血や、それ以上に目を覆いたくなる物語の中にも、さりげ無くも丁寧な感情描写が痛々しく愛おしく悲しく流れていく雰囲気がとにかく素晴らしい。
少年少女の(少年の方は物理的にもだが)手探りな互いへの思い、気持ちの変化を、風景込みで語りかけてくるような構図、長回しの映像が“間”の一つ二つで叙情的に漂わせてくる。

悲恋やロマンスを主軸とし、感情発露する人間の顔のみを画面中心に据え、盛り上げ用音楽で泣かし所を分からせに来る娯楽性が重要視されウケるとか、ただ社会問題描写を淡々と捉えたシーンのものを社会派映画として認知させようとする邦画の(乱暴な言い方をすれば)「恩着せがましいカタルシス誘発・胸クソやり逃げ」の体質には作り得ない名作。

静かな、しかし限りなく雄弁なラストシーンが、“不死”や“盲目”の主人公らとして作品全体に充満していた悲しく暗い痛み、すなわち原題『The Dark』の意味合いを、確信を以ってメタファーとして知らしめ、心に染み込ませてくれる。
烏丸メヰ

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