しの

ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒のしののレビュー・感想・評価

3.5
ライカ作品の中でも全体的にロケーションが明るく、実物に光が当たる美しさにうっとり。世界旅行モノでもあるので、セットの多さがとんでもないことになっている。しかもそこで『インセプション』『インディ・ジョーンズ』などに影響された活劇をやるので唖然。

日光が服や肌に当たる「実在感による美しさ」に今まで以上に驚いた。もはやちょっとした地面のぬかるみすら美しい。これぞ実物を用いるストップモーションならではの表現だと思う。『クボ〜』でも水の表現は凄まじかったが、今回はそれに加えて森林や雪山など自然描写も豊か。素直に見惚れる。

お話は単純で、ロードムービーということも考えればオチは冒頭時点で予想できてしまう。同じロードムービーである『2分の1の魔法』は記憶に新しいが、やはりピクサーに比べると練り込みが弱い。他人に自分をジャッジしてもらう必要はない、というテーマなのであれば、終盤の「証明」との対比があまり機能していないのは気になる。そこに至るに足るバディとのドラマの蓄積がイマイチ感じられない。

ライカ作品では初めて大人が主人公だが、キャラクターとしてはかなり子供っぽいというか、もはや倫理的にどうなのという展開も結構あったりする。車内で窓ガラス割るくだり、盗みに入るくだり、元恋人が同行する展開、悪役のアッサリ感など、「それでいいのか…?」と思うこともしばしば。

ただ、全編にわたる圧倒的なビジュアルがメッセージを補強している。自分が誰と関わり、自分が何者なのかを決めるのは自分自身だ、という主張が、「こんなに世界は広いんだから」というビジュアル体験の中で伝わってくるのだ。この点はやはり唯一無二だと思う。

伸び代があるとすれば、アクションシーンの野暮ったさかもしれない。殺し屋に追われるというサスペンスはあるが、絶対に殺されそうな場面でも死なないので、緊迫感はあまりない。特に酒場のシーンは顕著。クライマックスの「氷柱」を用いたシークエンスも、ストップモーションの実在感がある分、物理的にあり得ないアクションの違和感がどうしても拭えなかった。

とはいえ何と言ってもストップモーションが良すぎる。目が幸せとはこのこと。『クボ〜』を作ってしまったことでハードルが高くなっている感は否めないが、それでも作品毎にしっかり今までにない表現をしてくる辺りはさすが。更なるライカの飛躍に期待したくなる一本。
しの

しの