たく

ザ・ライダーのたくのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
3.8
落馬による怪我でロデオができなくなったカウボーイが無理を承知で競技への復帰に執着していく話で、クロエ・ジャオ監督らしいマジックアワーの映像が美しい。調べると、主役を演じたブレイディ・ジャンドロー自身の実話が基になってて、彼の家族や同じく落馬の後遺症に苦しむ先輩カウボーイに至るまで本人が演じてるとのことで驚いた。劇中で実際にロデオをやってるシーンが出てきて、どうやって合成したんだろう?と思ったけど、あれは本当の競技中の映像だったんだね。実体験を本人が演じる手法には、クリント・イーストウッドの「15時17分、パリ行き」を思い出す。

競技中に落馬して頭部に重い怪我を負った名ロデオ選手のブレイディが、病院を抜け出して術後に頭部に巻かれた包帯を自分で取り除く痛々しい冒頭から始まる。とても競技に復帰できる状態ではないはずなのに、どうしてもロデオへの夢を諦めきれないブレイディが葛藤していくなかで、彼が現実とどう折り合いをつけていくかという展開になる。彼には愛する妹がいて、彼女は自閉症だけど生きることを心から楽しんている様子。おそらくブレイディは彼女の存在が心の大きな支えになってるんだろうね。もう一人、先輩のロデオ選手で落馬によって全身が麻痺してしまったレインとの交流が、彼を現世につなぎ留める重要な役回りだった。手術で剃った髪の毛も生え揃ってきたブレイディがいよいよ競技に復帰できるかと思ったところで、左手に怪我の後遺症が出てしまい、さらに嘔吐の症状も出て不穏な空気が漂う。

ブレイディが偶然出会った馬のアポロにダイヤの原石のような才能を見出し、買取資金の捻出のために大事な鞍を売ろうとするシーンは観てて辛かったね。ここで一歩踏みとどまり、見かねた父親がアポロを買い取ってくれてからの調教シーンには思わず息を呑む。最初人間に対して強い拒否反応を見せていた馬が、ブレイディの高い調教技術によって少しずつ慣れてくる様子がものすごくリアル。馬にこんな演技を仕込むことは不可能なので本当に調教してるんだと思うけど、さすが本人が演じてるだけあるね。

ブレイディが拳銃を持ち歩いてて、これでいつか自殺するんじゃないかとハラハラしながら観てたら、脚を怪我して致命傷を負ったアポロが拳銃で安楽死させられる。これはアポロが怪我でロデオに復帰できないブレイディの身代わりになったように感じた。終盤、ブレイディがいよいよロデオに復帰するかというところは「レスラー」みたく死に向かう男を思わせたけど、彼は夢に死ぬのではなく現実に生きることを選択したんだね。
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