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Fukushima 50のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

Fukushima 50(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

門田隆将の原作は未読。映画としての出来のみで判断する。

地震直後、放射線と闘いながら最悪の事態を避けようとする東電職員たちと日本政府を描く。

「ベントやるメンバー決めてくれ」「わかった」
「酸素ボンベ、20分しかもちません」「それだけありゃ十分だ」等、映画的に映える台詞が多い。

現場の責任者として、本店と協議を重ねながら対応する吉田所長を渡辺謙が演じる。

佐野史郎が演じる菅直人はヒステリックだが目の前に現れる状況を持ち前の理系脳で理解し、全力で対処する人物として描かれている。

政府と現場のパイプ役である本店の責任者を篠井英介が演じているが、割とこの人にヘイトが集中するような描き方だと思う。この作品で最も悪魔化されているのはこの人だ(「首相一行のマスクはそちらで用意してください」)。

現場唯一の女性と言っていい安田成美演じる総務班の浅野真理が、水が出なくなり臭くなった男子トイレの掃除をしている場面がキツい。男子職員に「さん」付けされるほどの立場の人が、技術者ではなくケア要員として登場する。たとえ事実に基づいているのだとしても、これはキツい。

こういう災害映画になると、自衛隊員は人格のない機能のように描かれるが、この映画も例外ではない(2号機爆発の危機に際し、吉田所長が「後は我々がやりますから、自衛隊の方々も撤退してください」「民間の方々が残っているのに、我々が去る訳にはいきません。国を守るのが、我々の仕事ですから」「失礼しました」のやり取り)。

菅直人が東電本社に乗り込んでフクイチからの撤退を禁ずる演説をしたときに吉田所長がmooning(尻を出して相手を侮辱する)場面があるが、日本映画でこれをしている作品を初めて観た。

終盤の「オペレーション・トモダチ」は、参加した米軍兵士から放射線被害の訴訟を起こされているはずだが、そういうのもすべて捨象されている。

10m以上の津波は来ない、自然をコントロールできると思い込んでいたことを手紙で告白する吉田所長。あたかも東電社内だけの問題であったかのように印象操作されるが、津波対策を取ろうとしたときにストップをかけた時の政権の責任もあるのではないか。

東京の会議室で指示を出すだけの上の言うことを聞かざるを得ない現場の無念がよく滲み出ているが、結果的に「起こってしまったこと」を国の原発政策ではなく東電社内の問題だけにしてしまっている面もあると思う。国会での共産党の質問に対し、「全電源喪失はあり得ない」と返答し、安全対策を怠った第一次安倍政権の責任は不問となっている。そこらへんを描く方が当時の民主党政権に対してはフェアだったと思う。

最後に出たキャプション、「復興五輪と位置付けられ」も「聖火は福島からスタートする」もコロナのせいで怪しくなりつつあることも含めて、記録的価値のある作品だと思う。

映画的描写と現実の乖離を埋めるために、この映画を観た後は、本記事を読むことをお勧めする。

https://www.47news.jp/4603873.html
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