犬里

オオカミの家の犬里のレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
4.2
最初から最後まで、絶えることない悪夢のような光景を描いていて凄まじい。映像に切れ目がなく、絶えず変化し続ける様子は片時も目が離せない。見てる側も、マリアの想像力と心象風景の根底にある不安や恐怖に、閉ざされた家の中で晒されることになる。
2次元と3次元が同時に存在して動き続ける様子が見事。壁画として描かれるマリア。壁に描かれた存在である時点で、その家から出ることができない存在なのだろうと感じた。
「ホラー映画」というよりは「アート映画」という印象だが、悪夢を描き観客に恐怖や不安を感じさせる作品であるので、これも立派な「ホラー」だろう。

青い服を着た「マリア」、「ペドロ」など、キリスト教的な要素も描かれているが、狭い家に閉じ込められた要素のうちの1つに過ぎず、マリアに何の救いももたらさない。

パンフレットの解説やインタビューを読んで「なるほどなぁ」と思った。宗教コロニーの支配者側のプロパガンダを模すことで、被支配者側の内面を描いている、そして被支配者が支配者に転じてしまう様子は生々しい。
ドイツ系のコミュニティではあるけど、チリの話である。「肌の黒い子は罰せられる」、白人の姿になった少年に「美しくなった」など、元ナチスの価値観をベースにした、チリの褐色肌の人達に対する実在するであろう人種差別を感じ取り嫌な気分になる。

火事でも燃え残るという「泣く少年の絵」が火事のシーンで出てきたのが印象的だった。あと、スパイダーマンのコスチュームを着たビルド・ア・ベア・ワークショップのテディベアが出てきましたね。終盤でペドロがそのテディベアを持っていたのは、マリアを縛る蜘蛛の糸のイメージだろうか?他にはポケモンやドラゴンボールのシールが貼られた机とか、小物の気づきもあって細部まで目が離せない映画でした。
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