さわだにわか

ザ・スリープ・カースのさわだにわかのレビュー・感想・評価

ザ・スリープ・カース(2017年製作の映画)
3.8
中国資本入ってるし抗日ものだしで中国本土でも公開されたんだろうと思ったら検閲に引っかかって本土では公開されなかったと映画評論家のくれい響さんが言っていた。
やっぱ本土だと現代もののスプラッターなホラーなんかは映画館にかけるの難しいんだねぇ、という話ではあるが、もしかしたら生活苦から皇軍に同胞を売った男の葛藤と後世まで続くその呪いというプロットの時点である程度ダメだったのかもしれない、と邪推したくなる。

観ていて驚いたのはリアリズム寄せのタッチで皇軍が描かれていたことだった。悪い軍人はちゃんと日本人俳優が地に足のついた芝居で演じているし、そのキャラクターもいわゆる抗日映画的な漫画じみた悪役ではなく、出世のために日本語のできる現地人を使って慰安婦やなんかかき集めたりしている小悪人。
この小悪人軍人に使われるアンソニー・ウォンの日本語芝居もどうせゲテモノホラーだからと手を抜いた感じではないし、同胞を売って自分は皇軍の庇護の下でのうのうと生きていることの罪の意識から徐々に精神を病んでいくサマはさすが名優と唸らされる。

そのへんのドラマを丹念にやっている(小悪人軍人がアンソニー・ウォンに目をつけるきっかけがウォンの所持していた芥川龍之介の本、というのも抗日映画的らしからぬところ)ものだから抗日映画的な快楽がない。
確かに日本兵はろくでもないが焦点が当てられるのはあくまで皇軍の占領下で同胞を売った香港人(なのか中国人なのかそのへん疎いので知りませんが)で、やむにやまれぬ事情があったとはいえ我々は敗者の正義を声高に叫べるほど立派な行いをしてきたのだろうか…というような主張ならざる主張も見え隠れしないでもない。

ラストで急に「地獄の謝肉祭」を思わせるゴアい人食いシーンになっちゃってなんじゃこりゃと最初は笑うが、そう思えばこれもなにやら暗喩めいていて、なかなかしたたかで体制批判的な映画に見えてくる。
人が死にまくる映画ばかり50本くらい撮ってる職人監督ハーマン・ヤウに思想なんかあるんかよという気もするが…でもこの人のフィルモグラフィーを振り返ると人間の業を容赦なく描くっていう(党イデオロギーと相容れない)姿勢は昔から一貫してると思うんすよねぇ。
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