このレビューはネタバレを含みます
都合の悪い情報を何としても握りつぶしてくる強大な国家権力、政府に属しながらもそんな権力支配に違和感を覚える男、忖度だらけのメディアの中にあってそれに抗おうとするある新聞記者がそれぞれの正義に奔走する話。
我が日本における大問題を映画化してくれた作品だと思う。最近もずっと話題になっているが、あるタレント事務所の元社長による未成年男児への超大量性加害問題が数十年間水面下に押し沈められていたことも、この映画にみえる権力とメディアの関係からすぐに理解できるだろう。権力者はその力で情報を操作し、民衆に周知させる役割を担うメディアを強力な圧力でもってコントロールし、真実を明るみに出さないのである。
そういったことに断固抗う姿勢をみせる新聞記者「吉岡」はおそらく正しい。だが私には、内閣情報調査室の多田にもその行動を正当化できるほどの信念があったように思える。多田は再三「この国の平和のため」というようなことを口にしていた。つまり多田は多田で、そういった真実を国民に伝えないことこそ、日本の平和に繋がると本気で考えている。
最も複雑な心境を携えているのが松坂桃李演じる杉原だ。権力が真実を捻じ曲げることに戸惑い、元上司が自殺に追い込まれて憤り、しかし守るべき家族を想って自分の正義を押し殺した。これぞ人間だと思う。ラストシーンの精神的な憔悴がみえる表情なんか素晴らしかったです。
北村有起哉演じる東都新聞の陣野の気持ちもすごく分かる。真実を報道したいけど圧力に負けちゃうみたいな。そのジレンマにいつでも頭を悩ませている。こういう人本当にたくさんいるんだろうなと思いました。
内閣情報調査室が死ぬほど薄暗いのがものすごく気になったけど何だったんでしょうか。そういう雰囲気を演出することで、その場所が明らかに異質で、異常なことをするための現場だということを伝えたかっただけなのだろうか。
個人的に陰鬱な雰囲気ばかり漂う映画があまり好きではないので、人にはオススメしないかなと思いました。
[役者さん]
松坂桃李
安定してますよね。背筋が綺麗。様々な絶望が入り混じったラストシーンの表情素敵でした。
シム・ウンギョン
まだたどたどしい日本語に「アメリカで生まれ育った」という設定をつけていたおかげでものすごくハマっていたとは思う。当時24歳か。
本田翼
ただただ可愛い。この映画で唯一頬が緩むシーンを作ってくれた。あざとく甘えるの最強。
岡山天音
もっと見せ場作って欲しかったな。彼の演技を見たい。
田中哲司
無表情で淡々と、政府のために動く。殺し屋みたい。ハマってました。
北村有起哉
ベテラン記者役似合ってました。吉岡の記事を推敲するシーンで有能さがみえるの良いです。