ジーハ

新聞記者のジーハのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
3.9
序盤ですでにもう怒りと憤りで気持ちがいっぱいになってしまった。そしてこれは最後の最後まで続く。

最近続いている国民をバカにしたような国の不祥事の数々…フィクションとはいえそれを彷彿とさせるストーリー。脚色は当然あるとしても、間違いなくこれは何かの事実に基づいたもの。明らかに嘘をついてる政治家達の発言といつのまにかフェイドアウトしてしまう国のスキャンダル。そんな茶番をメディアを通して、目にしてきただけに、この作品で改めて現実を確認させられたような…そんなショックも大きかった。

杉原(松坂桃李)が所属する内閣省のオフィスの無機質さ…。まるでロボットのように淡々とPCに向かい仕事をこなす「エリート」たち…人間ではなく魂を抜かれた選ばれし奴隷に見えて怖かった。

杉原もどんどん目が死んでいくんですよね。
カッコ良く無くなっていく…(笑)

女性記者・吉岡を演じたシム・ウンギョン。
ネイティブではない日本語を気にする意見もあるみたいだけど、言葉より前に、とにかくめちくちゃ難解な役だったはず。彼女の出演作を何本か観たことはあるけど、日本の俳優に持つようなイメージや先入観がないぶん、女性記者・吉岡の役作りというより、彼女自身をリアルにその人に思え、彼女が抱える一生消えない傷や闇と、その真逆のとことん真実を追求する情熱が入り交じる複雑なキャラクターを心底演じきれていたように思う。

国のため、この国のため…何度も何度も劇中で繰り返し聞こえた言葉。本当か嘘かも判断できないうちに嘘を正義だと擦りこまれ、次第に人としての思考回路さえも奪われていくエリート官僚と言われる人たち。

上司の多田(田中哲司)。
睨まれた者には死を。契約を交わせば存命…
まるでもう人間の姿をした悪魔でしょう!?
でも彼も、国家が「国のために」造り出した産物なのかもしれないけど。

後半に言い放たれる
「この国の民主主義は形だけでいい」

…確かに。今さらながら知らないふりをしてた事実を目の前で告白されたような衝撃。

そう…。実はこの国のリーダーでさえ自分たちでは決めていない。そして、実はあらゆることを決めてるんじゃなくて、選択しているだけだということに気づく。

でもそれは結果、
自分たちが声も上げず選択してるってことも。
そんな意識レベルを自分たちで上げる必要があるってことも。

観る側に委ねられようなラスト。
賛否両論あるかもしれないけど私は好き。
きっとそれは映画をみたあと、何かしら話題になり余韻や問題が置き去りにされないだろうから。この作品は日本の社会派作品として傑作だと思います。


(追記) 2020.3.6
日本アカデミー賞でシム・ウンギョンさんが
主演女優賞を受賞されました。おめでとう!
母国でない国この日本で、しかも日本語での演技で。これぞグローバルスタンダード、
本当に素晴らしい。国家や政治レベルでの壁はあっても、文学、音楽、映画…文化には国境や壁はないと信じたい。
ジーハ

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