mera

新聞記者のmeraのネタバレレビュー・内容・結末

新聞記者(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

すごくおもしろかった! そして考えされられる。

まずはこの映画が作られて公開されて、満員御礼が続いていることに5億点。

なによりも望月記者の存在、角川新書での書籍化、プロデューサー河村氏の企画、映画を制作して、劇場で公開するのに関わられたたくさんの人に感謝。

選挙の前に全国民が観るべき映画では。

記者側も、政権側にいる人のこともちゃんと描いていて、どちらの立場で見ても、考えるきっかけになるエピソードが満載。

最後に杉原(松坂桃李)は家族を守るために官僚側を選んでいたけれど、それは自殺した神崎がかつて選んだ道で、その結果「俺たちは一体何を守って来たんだろうな」「お前は俺みたいになるな」という未来がある。

しあわせに子どもを産んで、信頼できる夫と娘と暮らしていた妻と、すくすく18歳まで成長した娘は残されて、妻は失ってからもっと早く夫のつらさに気付けばよかったと泣く。未来の本田翼と娘の姿ですよね(あえて同じ“娘”にしているので狙ってそうしているはず)

それを間近で見ていても、だめ押しで手紙まで来ているのに、目の前の選択を間違える杉原の姿が、いまの日本なんだなあと。ここまでやられても、まだ現政権の側を選ぶのか、と。杉原は真面目だから、神崎ルートはたぶん確定。なのに、目の前でその末路を見ていても、直接忠告されていても、ダメなんですね。権力って恐ろしい……! 人って弱い……!

間違えたらやり直さないと。日本人はやり直すとか、より良い方向へ変化するのが苦手すぎますね。杉原の姿は、分かっていても見ないふりで自民党に投票している人。なにを守っているのか、ちゃんと考えないと。目先のことしか見えていないと、未来は暗いままでは。

実際の事件もたくさんモチーフになっていて、とてもすばらしい。描き方も抑制が効いているので、フィクションとして成立している。ほんとうに、よく映画にしてくれました。パンフレットによると、ちゃんと官僚側にも協力してもらっているそうなので、希望がありますね。

私が最初に、大手新聞の記事や、NHKやテレビのニュースで放送していることや、政府や警察が発表していることを、そのまま信じてはいけないんだ、と気がつかされたのは、清水潔さんの著書『桶川ストーカー殺人事件ー遺言』でした。今回の映画ではじめて、報道が恣意的にコントロールされていることを知った人は、ぜひ読んでみてほしいです。個人的には、この一冊で世界の見え方がまったく変わりました。

パンフにもありますが、もともとそれほど高くなかったけれど、日本は安倍政権になってから、世界報道自由度ランキングで、順位が急降下。

NHKや大手新聞やテレビが、政権に都合よくコントロールされていることは、映画の通りなので、一部の本物の報道、ネットで発信される個の声、一部の書籍やラジオなどで、自分の目でみて、耳で聞いて、考えて、判断するようにしなくてはいけないと思います。日本、このままだとほんとうにこわいです…。安倍政権はなにを守っているのでしょう? 少なくとも、私ではないし、私の周りにいる人たちでもないと、私は感じています。

あと、本田翼の存在は、とてもわかりやすく、現政権の中の人たちや、支持している人たちの“想像”する妻像でしたね。自分になにがあっても決して仕事人間の主人の邪魔をしない、理想の奥さん。

旦那様が最優先なので、もちろん専業主婦だし、仕事人間の彼を完全にサポートするのが彼女のしあわせ。立派なマンションの高層階に住んで、男性にとっては、無償の愛で支えてくれる専業主婦の奥さんと可愛い子ども。女性にとっては、仕事は忙しいけれど、優しい旦那さま。

あれが、現政権の中の人たちのリアルなんですよね。稼ぎのいい優しい旦那様をつかまえたい専業主婦に憧れている女性の理想もあれですよね。でもその未来は、今の日本だと神崎家だということです。誰もしあわせになれない。

つまり、あの奥さんたちが自分で仕事を持っている自立した女性なら、神崎も杉原も別の道を選べるわけです。自分の稼ぎだけが生活を支えているので、今の道から外れることができない。結局、男性社会が男性の首をも締めている。

田中哲司の役とか現政権の人たちみたいに、優しさやまともな心がない人たちなら、弱い人たちがどうなっても気にならないので、マイノリティや女性の自由を奪ったまま“自分たちだけとてもハッピー”でいられると思いますが。そんな日本、国民の多くが望んでいるのでしょうか?

本田翼の役はわりと強烈な、一部の古い価値観の男性たちへのイヤミだと思えたので、むしろ爽快に感じました。あの妻はリアルな人間ではなかった。実写だけど、見事な作りもの。

あれをみて、あんなお嫁さんになりたい、とか、あんなお嫁さんが欲しい、と思う人は、ちょっと人とのコミュニケーションや、自分自身を見直すべき。一方的に誰かに依存していたり、搾取している可能性大。あなたが男性なら、女性にも男性と同じように人格や人権や自由があることを理解できていないかも。あなたが女性なら、常識(だとあなたが考えているもの)を疑って、自分の頭でものを考える訓練を少しずつでもしたほうがいい。

というわけで、ほんとうに見て良かったです! たくさん考えさせてもらえました。ありがとうございます!

これからの日本映画に、もっともっと、こういう作品が増えますように〜。そして、心ある望月さんや清水潔さんのような記者さんが増えて、政治を監視して、日本が良くなりますように。一国民からの切なる願い……。選挙はもちろん行きます!


2回目鑑賞したので追記。

本田翼の妻がよりレプリカントに見えました。ラスト、本編最後の言葉が「この国の民主主義は形だけでいい」。次の声なき声が「ごめん」。本当の最後の音は、それを目の当たりにして、大きく息を吸う音。これは、それでも負けない、まだ自分は闘うのだ、と、大きく息を吸い込む、決意の呼吸音だと思いました。

あと、主人公がまわりを気にせず、自分がどう見えるかも考えず、ひたすら自分の思うことに没頭する感じとか、人に迎合した愛想笑いをしない感じなど、今の若い有能な女性、というイメージでした。こういうヒロインが日本映画で描かれたこと、快挙だと思います。

一緒に見た複数の人が「怖かった」という感想だったのも、すばらしいと思いました。目からウロコが落ちると怖いですよね。
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