mさん

行き止まりの世界に生まれてのmさんのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

もうあの世界に生まれた子供が
逃避するためにカメラを回して
大人になってしっかりと意味を持って
完成させるっていうだけで素晴らしい。
周りも撮影することに協力的なのもいい。

全く同じ物語をフィクションで描いたら
ご都合主義とか、あざといとかいう感想が出るかもだけど、本作はカット編集はされてるにせよ紛れもないノンフィクションなので、全てがフィクション映画より強烈に映る。赤ちゃんが産まれて大人になっていく様や、赤ちゃんが生まれるまで仲睦まじかった夫婦が、息子の子育てを機に険悪になる展開も、ありきたりだけどノンフィクションなので物凄く見入ってしまう。

はじめは同じ場所にいた3人の子供が、父親になったり、映画を作ったり、自立してお金を稼ごうとしたり、どんどん大人になっていき、どんどん別の場所に向かっていく様子がすごくドラマチックだった。

特にザックがミアに暴力を振るってしまうことを
ビンの母親が父親から暴力を振るわれていた部分に絡み付けて、どんどん歴史が繰り返されていく感じになっていくこの構成は本当にノンフィクションなのかと悲しくなりながらも、物凄い物語としての力強さを感じてしまった。


そして過去の無邪気な笑顔やスケボーを最後にもう一度見せてくるのがすごい。映画ならではだし、ここまできたんだという「人生の重み」を感じた。

あと普通に撮影期間1年くらいの物語だろうと思っていたら、5年くらいの物語を見せてくるので驚いた。

この3人をただ単にバラバラにしてミックスした構成担ってるわけではなく、所々対比があって、映画という構造になってる。

落ちていくザックと登っていくキアーの対比。
逃げつづける自分を野原でザックが認識する場面では、自分の父親を探すために墓地を歩き回るキアーがカットバックで描かれる。その場で静止するザックと動いて過去と向き合うキアーの対比が映画らしかったし、お互いの存在を何倍も強めていた。

ザックはデンバーに出たが結局街に帰ってくる。
しかしキアーが最後にデンバーへ向かう。外の世界に適応する人、できない人とどんどん対比されていくのが印象的だった。

あとビンの聞くリアクションの表情は、基本的に1日だけ母親と話したあの日に撮影されたものだけど、ザックの開き直りにも聞こえる自分語りのシーンの後に、そのビンの悲しい表情がカットインされて、観客と映画の反応がリンクするようになっててすごいよかった。

スケートボートをする瞬間は全てから解放されて、誰にとっても幸せな瞬間として描かれてるのがいい。今作ではひたすら落ちていくザックでさえ、息子と一緒に楽しそうにスケボーをしている。
mさん

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