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映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!のKuutaのレビュー・感想・評価

3.8
クレイアニメの職人集団、アードマンの作品。ショーンの農場に子供の宇宙人がやって来るドタバタコメディ。映像だけで90分を見せ切る技量は流石の安定感。農場主が荒唐無稽な計画語る場面の手際の良さ、アイデア満載のスーパーの大暴れが特に楽しい。

原題の「Farmageddon」から分かるように全編にわたって宇宙映画のパロディが連発されている。工事現場の作業員の格好をした羊たちはそのまんまのアルマゲドン。未知との遭遇やXファイルのお馴染みの音楽がドアの鍵になっていたり、モノリスのように食パンがせり上がったり。ロボコップやWALL・Eっぽいロボット、ヴィルヌーヴのメッセージのような場面も。

勿論こうした小ネタも楽しいのだが、目配せのために話が止まるのではなく、全てはストーリーテリングのために配置されている。

それが最も生きているのがメンインブラック風の悪役の女性だ。孤独に宇宙人の捕獲を願い続ける設定はどこかスピルバーグ的でもある。オチが映画としてストレートに素晴らしい。嘘から出た真というか、演劇が本当になるギャラクシークエストを想起させるもので、予想外にホロリとさせられた。

このシリーズは、人も羊も犬も何を話しているのか分からない。身振り手振りでコミュニケーションする世界観だ。今作の宇宙人もそう。言葉の通じない圧倒的な他者と、ピザや円盤を通して語り合う。終盤、まさに文字を投げ捨てていくシーンがあるが、アクションでドラマを作るこの作品のあり方そのものが形になっていると思った。

アードマン系列で言えば、「ウォレスとグルミット」初期の傑作「チーズホリデー」も宇宙映画パロディが満載の作品だ。今作冒頭のテレビに一瞬写っており、リスペクトが感じられた。

今作は「くまのプーさん」とも構造が似ている。幼く純粋な宇宙人ルーラ(表情の変化がとても可愛い)、少し成長して悪知恵も働くようになった羊ショーン、真面目で規則に厳しいが優しい所もある猟犬ビッツァー。みんな同じような子供でありつつ、年齢感や個性が微妙に異なる。この三者がそれぞれ年下の面倒を見ながら、困難に立ち向かう話のように見える。「プーを見守るクリストファーロビン、を見守る我々」の3層構造にも近いのかなと。76点。
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