蛇らい

スウィング・キッズの蛇らいのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
3.5
表現者、表現することが否定されたりコケにされたりすることが現在進行形で行われている状況に置いてこの一本刺さりました。

星野源が発信した#うちで踊ろうに乗っかった安倍首相が、タイムラインに流れてきたときの戦慄と絶望感は忘れることができない。面と向かって公権力の名のもとですべてを否定することが成立してしまっている。その張本人とそれに関係する人々、音楽に携わる人々への存在と意思、アクションを起こすことへの侮蔑である。

まさにFuck Ideologie!と叫びたくなるようなことが現実で起きている。このタイミングでこの作品を観れて良かったと思う。

この作品の監督は群衆の撮り方とコントロールがうまいのがひとつの特徴だ。引きのカットと寄りのカットをバランスよく配置して全体像がぼやけないように気を配っている。けっこうメインの役者が群衆に紛れてごちゃ混ぜになるみたいなシーンが多いが、誰がどこにいてという位置関係がわかりやすい。それでいて最後は再びまとまってはけるみたいな動線もしっかり考えられている。

その場所を立体で捉えるような感覚がカメラワークからも感じる。被写体の周りにある小道具や人物を一瞥できるように必要な情報を必要な分だけ丁寧に写す。それにより四方に散らばっても映像的な重心がぶれない。

有刺鉄線の柵越しに撮られるダンスシーンは美しさと同時に、排除できない現実の壁としてしっかりと写る。結末にも表れているとおり、エンタメでごまかせない現実が容赦なく立ち塞がる。そういう意味では観た観客にその後に何を思い何をするのかが委ねられるタイプの作品だ。

ラストの黒人ダンサーが思い出の講堂に再訪するシーンも強烈。その場所は現在でも形が残っていて記念館的な場所になっている。写真や資料が飾られ、その当時のことがわかるようになっている。しかし、彼だけが思い出すことのできる記憶がある。講堂のステージに残る五つのすり減った床の木目。そこには公的な資料や写真には残らない、誰にも知り得ない永遠が刻まれている。それを噛み締めた彼からの最後のタップダンスバトルへの繋ぎには痺れました。

それぞれのあの場所にいたはずの人々が、ひとまとめに戦場にいなけれなばならなかなったのは間違いなくイデオロギーのせいである。お金、社会情勢、政治家個人の思想なんかに個人の人生のシナリオを書き替えられてたまるかよと強く思う。観られる環境の方は是非。

あとパク・ヘソのドロップキック最高です。
蛇らい

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