mrかっちゃん

天気の子のmrかっちゃんのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.2
「天気なんて狂ったままでいいんだ!」

「君の名は。」で一気に市民権を獲得し国民的人気と規格外の大ヒットを叩き出した新海誠監督。
監督の作品は全作見ていますが、内向的でナイーブな主人公が多く自分の望みに真剣に向き合うのが一貫されていて、そこに男女間の物理的な距離と、すれ違い。
「言の葉の庭」「秒速五センチメートル」では2人の間の恋愛模様が徐々に近づいていて離れて、愛が加速していく様を美しく
描き監督の作家性が存分に発揮されていました。
「君の名は。」はエンタメに振り切り作家性は押さえ込んでマイルドに作っていたように思える。

そして今作はその押さえ込まれた作家性が発揮され、いや暴走していた。
今作は「君の名は。」とは真逆というか、過去作で下した決断を覆して「ふざけるな俺は彼女に会いたいんだ!」と社会や周りを無視してでも、逢いたいと強く思う自己の願い。
違う言い方をすれば愛の暴走を初めて描いた作品だと感じた。

今作では社会の理不尽さや汚れを猥雑な性商売のお店や水商売をあえて表現し、現実にがんじがらめになり魔法やお伽話など聞く耳を持たない大人が主人公帆高の前に立ち塞がる。
前半と後半では立ち位置が変わりある意味帆高と鏡写しの存在の須賀。
須賀は帆高に「大人になれよ少年」と何度も促す。
それは監督自身自身が自分への戒めと変わらなくてはならないと思っている気持ちを投影したキャラクターだと思います。
帆高は言うなれば、監督が大事にしている作家性やアイデンティティの現れです。

劇中の終盤の展開で、帆高がある行為をするときに須賀が「いい加減にしろ!」と何度も止めようとする。
それでも帆高は立ちふさがる大人たちを振り切るために力を行使する。
この展開には溢れ出す愛が一気に弾け監督の今までやりたかった事は、こういう事だったんだと腑に落ち心の中で「行け!」と叫んでいた。

今作はずっと雨が降り続いているのですが、天気を世界情勢と重ね合わせて表現しているように受け取れる。
降り続く雨は世界の不条理や暴力で晴れは平和。
京アニが放火された事件はまさしく叩きつけるように降り続く豪雨。
いつか大丈夫だよ。と言える晴天に恵まれてほしい。