チェリビダッケ

天気の子のチェリビダッケのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.7
今夏東京では20日連続で日照3時間以内という「狂った」記録を打ち立てるほどの異常気象だったが、この作品の公開はまさにタイムリーだった。

監視社会の息苦しさに対して、軽やかに抗う若い2人とそれを支える周囲の人達。個人的には禁酒法時代のボニー&クライドを思い出したが、かのギャング団のようにそれぞれの役割が明確に与えられ、どの人物もしっかりと描き分けられていた。

雨天続きで状況が割と深刻にもかかわらず、時代に則した言葉遣いとテンポの良い台詞まわしで暗さを感じさせない登場人物達。地面を打つ雨粒に至るまで感情がこもっているかのような作画と無駄のないカット割。光線の色にピンク色を混ぜる独特の色使い。それらが合わさって新海監督の世界観を構築していた。

人が究極の選択を迫られた時、自分自身が幸福になる道が残されているのなら個人的な事情を優先してもいい…。この作品では大団円を迎えるにあたり、事情を知らないその他大勢の人達は大損害を被ることになっている。帆高と陽菜の2人だけではなく、凪、須賀、夏美も事情を知る側の人間であるが、5人だけの秘密にしておくにはあまりにも内容が重い。

とは言え、個人の事情を選択した以上は環境に順応して生きていくしかないわけで、この作品では逞しく生きることが賛美されてもいる。あの若さで生きるか死ぬかの選択を迫られたら、おそらく大多数が生きる道を選ぶだろう。

逞しいといえば、語らずには終われないのが陽菜のこと。彼女を見ていると『天空の城ラピュタ』のシータを思い出す。健気で強くて愛おしい。あの若さで小学生の弟を養うとかとてもじゃないが真似出来ないし、尊敬の念すら抱いてしまう。

あとこれは余談だが、マクドナルドはプロダクト協力して本当に良かったのだろうか。劇中の設定が設定なだけに企業イメージ的にいかがなものだろうかと老婆心を発揮してしまった。採用時はやはり住民票記載事項証明書を提出させて、確認すべきところはしっかり確認しないと。