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ラヴィ・ド・ボエームのSのネタバレレビュー・内容・結末

ラヴィ・ド・ボエーム(1992年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アンリ・ミュルジェールの古典文学「ボヘミアン生活の情景」を原作とし、有名なプッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の翻案。
アキ・カウリスマキ監督が長い年月をかけて映像化した本作。同年のベルリン国際映画祭では国際評論家連盟賞を受賞。

芸術家の街パリ。ある日家賃滞納のためアパルトマンから追い出された、売れない小説家の男マルセルが、カフェで画家のロドルフォというアルベニアからやってきた男と意気投合する。二人がアパルトマンに戻ると、既に次の住人である、音楽家の男ショナールが居た。そうして、3人の芸術家の男たちの侘しくボヘミアンな共同生活をカウリスマキ監督らしいタッチで描いた作品。


2022年2月9日に逝去したアンドレ・ウィルム(マルセル)を偲ぶ気持ちで鑑賞したが、ウィルム氏が40代と若く、魅力的だが年齢を重ねてより味が増していったのだなと感じた。
全体的に『ル・アーヴルの靴みがき』の俳優陣が多く出ている印象。

ロドルフォ役のマッティ・ペロンパーが殆ど主人公となり、彼が出会う女性ミミ(イヴリヌ・ディディ)との恋愛とが絡んで物語が進んでいくのだが、ロドルフォは不法滞在者で国に強制送還されるなど、愛し合う二人には壁が立ちはだかっていくという切なさとユーモアのバランスが絶妙だった。 ロドルフォのワンレンボブにベレー帽、スカーフなどいかにもパリの画家風の出立ちや、ミミのソバージュ、熱っぽさと潤んだような瞳が良い。
また、ロドルフォの絵を買い付けに、砂糖会社の社長役ジャン=ピエール・レオが真顔で登場するのが笑えるが、最初に依頼する社内に掲げるための自画像がまた絶妙な可笑しさ。


小説もプッチーニのオペラも観たことがないため詳細は分かりかねるが、プッチーニのオペラの出来栄えにカウリスマキ監督が憤慨、復讐心から製作に至ったというから余程思い入れがあったのだろうか。
原作の時代設定が1830年という事で、古き良きフランス映画の雰囲気で一見1992年の映画とは思えないほど、僅かなバケットを皆で分かつほどの貧しい暮らしぶりを、オフビートな乾いたユーモアと、ミニマルな構図をもって見事カウリスマキの作品として成立している。


マルセルが関わる新聞王役にはサミュエル・フラーが出演。ロドルフォとミミがカフェで食事した代金を肩代わりしてくれる優しい紳士に扮する、ルイ・マルの姿も忘れ難い。
侘しさの中で、人の暖かさが染みるような作品だ。
音楽使いが独特で、シャンソン、エンディングでは日本の篠原敏武(しのはらとしたけ)が歌う「雪の降るまちを」が使用され、不思議な郷愁と懐かしさを感じるものだった。


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