はる

家族ゲームのはるのレビュー・感想・評価

家族ゲーム(1983年製作の映画)
5.0
間違いなく大傑作。
何度も映像化されている家族ゲームですが、2013年の櫻井翔くんver.をリアルタイムで観ていて凄く面白かったので、いつか映画版も観たいなと思いつつ今更になってようやく手を付けました。
松田優作、由紀さおり、伊丹十三、そして子役に宮川一朗太という強力な布陣によるシュールなコメディでして、のぼーっとしていて異様な雰囲気の松田優作と他では観たことのない演出の数々に鳥肌が立ちました。
全編に渡って物を食べる、飲むシーンがとにかく多く、この作品の軸と言っても過言ではありません。まず一番特徴的なのはこの家族が食事する際にまるでカウンター席のように4人が横並びになって座る事です。舞台を観ているような感覚になるこの演出は最後に爆発的な素晴らしいシーンを生み出します。父親が目玉焼きを食べるときに黄身をチューチュー吸う。飲み物は毎度一口で飲み干す松田優作。食器のカチャカチャした音などを際立てて強調する。風呂に浸かりながら豆乳を飲む父親。その飲みかけの豆乳を母親から渡されて飲む松田優作。引きこもりの兄が飲むのはいつも決まって牛乳。ありとあらゆる食事シーンに何故か強く惹きつけられる。そこに意味があるのか無いのか考えている間にまた新しい食事のシーンが登場する。そしてラストの茂之の受験合格を祝う席でのまさにカオスといった素晴らしいシーン。ケーキのロウソクの火を消して、乾杯して至って普通の5人ですが、父親が兄に対して茂之を見習うようにといった事を言い始めるあたりから松田優作を中心に様子がおかしくなってくる。貪るように食べ物を口に運び、飲み物をわざとこぼし、食べ物を投げつけ、兄弟は掴み合いの喧嘩を始める。でもこの異常な事態にしばらく誰もツッコまない。テーブルの上はどんどんめちゃくちゃになっていくのに、普通に松田優作からワインを注いでもらう母親。普段家族の問題に対して見てみぬふりをする母親の姿が分かりやすく表れている。この家族、実はすでにこの食卓のように崩壊に向かっているのだというメタファーになっている。でも本人たちはおそらくそれに気づいていない。だから松田優作は先陣を切って暴れ回る。その後にめちゃくちゃになった食卓を片付ける4人の姿が映る。ここでは家族の再生が意味されていると思う。この家族が一致団結して何かに取り組むというのはこのシーンだけだからである。
一見重大な問題がないように見えてもこの沼田家のように崩壊していて尚かつ本人たちも気付いていない家族というのは山ほどあると思う。だからこそこの映画から産まれる共感は凄いものなんじゃないでしょうか。笑えるけど笑えない。あえて劇伴をつけず、この絶妙な塩梅の空気感を保ち続ける監督の手腕。そして何より主演の松田優作の気味の悪い芝居。松田優作を観て毎回思うのはその画面を支配するパワー。演技が素晴らしいのは当たり前、何よりもそこに居るだけで画になるのが凄い。
2013年のドラマ版とは違い、松田優作演じる家庭教師の目的もどういう人間なのかも全く分からない部分がまた良い。煩わしい説明など一切しない潔さが大好き。何回繰り返し観ても楽しめる作品だと思います。あと、ちょい役で登場した戸川純ちゃんが可愛かったですね。
はる

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