うえの

宮本から君へのうえののレビュー・感想・評価

宮本から君へ(2019年製作の映画)
4.7
文具メーカーのマルキタで営業マンを務める不器用な青年宮本と姉御肌の女性中野靖子の2人の元に降りかかる悲劇と絶望、そしてそれらに決して逃げずに立ち向かった2人を描いた、2019年最熱量を持った作品。

新卒の若手営業マンの宮本がその不器用で頑固過ぎる性格ながら、恋に仕事にひたむきに頑張る姿やその仕事内容が自分に重なる部分があったり、ロケ地が会社の近くだったりと勝手な親近感を覚えていた2018年のドラマ版から一転、血だらけの宮本が飛鳥山公園を異様な雰囲気で歩く姿から幕開けた今作は全編通して生々しい表現や演出の連続で全く目を背けることのできない作品であった。

風間という靖子の過去、拓馬による無慈悲で暴力的なレイプ、守ると誓った宮本の失態、圧倒的な力の差で勝ち目の見えない拓馬とのケンカなどまるで自分が当事者かのような感覚に襲われ、恥辱や後悔、怒りなどの負の感情が津波のように押し寄せ、非常に息苦しく座りながらもその感情に合わせ手足が思わず動いてしまうような衝動に駆られた。

それに拍車をかける池松壮亮と蒼井優を始めとした役者陣の迫真の演技が素晴らしく、特に問題のシーンのあと1人取り残された靖子が呑気に眠っている宮本を目の前にして包丁を持ち出すシーンにおいて、靖子の顔を映さずに宮本の呑気な寝顔と激しく震える包丁を持つ手だけで靖子の感情を表現していて、カメラワーク、演技の両面から見て2019年の邦画作品のベストショットなのではないかと感じた。
また一切の同情の余地を持たせない見事なヒール役を演じた一ノ瀬ワタルの存在感が凄まじく、他のメディアで彼を見かけると若干の苦手意識を感じさせる程で本作以降の役者人生にも影響を与えそうな嫌われ役を見事に演じていた。

一貫してシリアスな展開だったが、井浦新演じる風間が靖子の妊娠をネタに宮本をゆすりにマルキタに訪れたシーンで、激昂した宮本が風間の股間を豪快に蹴り上げ、「止められるもんなら止めてみろ!!」と叫ぶ件が気持ちが入り過ぎて何言ってるのかわからないところが笑えて唯一胸がスッとしたシーンだった。
ラストの非常階段のケンカシーンは10年代の邦画作品でもトップランクの熱いケンカだったと思う。
間違いなく鑑賞中観賞後に精神的に体力的に大きなダメージを負うが、避けて通るべきではない製作陣の熱量がこもった作品。
あと今作ではチョイ役だったけど松山ケンイチ演じる神保が本当に頼りになるカッコいい先輩。
是非ドラマ版も観て頂いて、神保のカッコよさを感じてもらいたい笑。
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