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よこがおのblacknessfallのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
3.8
日本映画チャンネルは新進気鋭の現行の監督の話題作を放映してくれるとこが気に入ってる。
気になってたこれも録画しておいたんだよ。気になってたと言いつつ観るの遅くなっちゃったけど。
観たいと思いつつ、手が合わなそうだったし踏ん切りがつかなかった笑

よくある中年女性のミッドライフクライシスをしっとり淡々と画きました的なやつかと思っててそんなテンポだったけど、主人公の筒井真理子の甥が逮捕されからシフトチェンジ。
その事件に彼女も加担したとあらぬ報道をされ渦中の人としてマスコミのつけ回されることで日常が一気に壊れるハードな展開に。
その過程をけっこうな時間使って画く。
定番とは言え、周囲の疑念や悪意の目に晒され精神的に追い詰められていく様子は痛ましい。
住む家を失い、職場も辞めるざるを得なくなる。何よりそれまで親しく付き合ってきた人々から煙たがられ忌み嫌われる。
これをかなりあるあるな感じでリアルに撮ってるから地に足の付いた痛ましさに襲われた。

でも、この映画はそういう社会的な構造の問題がメインではなく女性の心理なんだよな。
日常が壊れていく過程で見せる筒井真理子の心情や行動から現代の女性のリアルな人物像が表出される。

それがよく出てるのが事件の被害者の姉と関係。
それまで深い友情で結ばれた関係とは言え本人まで加担を疑われてるわけだし、関係が破綻するかと思うけど、被害者の姉は筒井真理子を庇い、慰めるんだよね。妹が心に深い傷を負わされた犯人の叔母なのに。
実は彼女は筒井真理子に友情以上の気持ちを持っていて、これは推測なんだけど事件を機に寄る辺がない彼女を庇護することで、同性愛的な愛情を昇華しようとしてるように思えた。

それが証拠に彼女は筒井真理子に自分とルームシェアしょうと持ち掛ける。
そして、自分は婚約者と結婚するからとルームシェアの話を筒井に断られる。
すると、妹はまだ傷ついている。そんな時によく結婚なんかできるよね、加害者なのに。と彼女を罵る。
直後、マスコミに彼女のスキャンダラスなコシップを捏造してマスコミに流す。
自分の物にならないことのやるせなさから相手が憎くなる。これは恋愛感情があるからだよね。

彼女の捏造ゴシップのせいで全てを失った筒井真理子はかなり狂的な方法で彼女に復讐するためにある行動を取る。

タイトルの"よこがお"の意味は分からないけど愛と憎み、信頼と不信が1つ行動、心情の中にあり、それが本人でもコントロールできない形で噴出する。
この2人の女性の行動から女性心理の深淵をリアルに切り取り、現代の女性の生きづらさを見せられた気がした。

事件報道の問題や同性愛なんかの現代的なテーマを取り上げつつ、構造を掘り下げるんじゃなくて当事者の心と感情の有り様に焦点を当ててる。変わったバランスの映画だと思った。
冤罪者の受難と喪失感、失われた想いに届くことない感情。
「偽りなき者」とファスビンダーのバッドエンドな愛憎劇がミックスされたような不穏で繊細でエモーショナルな得体の知れなさがある。

実際、平穏な時からどん底に落とされる過程で筒井真理子は実に様々な表情を見せるんだけど、この演技が繊細で緻密で素晴らしい。カメラワークや構図も感情の揺らぎを効果的に見せる撮り方に拘ってるようにも感じた。

でも、自分は女性ではないので想像できる幅が限られてるはずで筒井真理子の演技に肝胆はしてもそれが表現してる心情を汲み取れてない部分が多いんだと思う。どう思ってこんな表情してんだろ?てイマイチ分からないシーンがけっこうあった笑

やっぱりあんま得意な映画じゃないけどこれは見てよかった。
たまたまなんだけどストーリーが異様に自分の気分にマッチしてた。
ざっくり言うとこの映画、結局、主だった登場人物の誰の願いや想いも誰にも届かず、信頼や温かさを得ることなく終る。それどころか敵意すら受け取って貰えない。どんな感情もただ流されていくだけ、誰もにも理解されず。
この虚無感が最近、増殖気味な自分の厭世観にとっても響いたんだよな、ああ、やっぱりそうだよな、みたいな笑
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