ヨーク

フォードvsフェラーリのヨークのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
3.8
車は好きだけど別にそんなに詳しいわけではない。モータースポーツも結果をニュースとかで見て、おぉ! ○○が勝ったか! とかは思うけどライブ中継にかじりついたりするほどではない。ちなみに車の免許は持ってない。あとポルシェが好き。という人間の感想です。
面白かったは面白かったが結構思てたんと違う映画ではあった。予告編ではすげぇアゲアゲな感じでこれは俺が観たいモータースポーツ映画が観れるのでは? という気持ちがあったのだが実際には何というか結構落ち着いた感じで思ってたほどアゲアゲな感じではなかったんですよね。もちろんレースシーンは最高とは言わなくても悪くはなかった。迫力のある映像でスピードも感じる。GT40に限らず登場する車はその魅力が発揮されていたとも思う。
じゃあ何が気に食わないと言われれば、アゲアゲなどという曖昧な表現では分かりにくいかもしれないけれど、ただ車が機嫌良く走っているだけではダメだろう! ということなんですよ! 特に本作においてメインとなるレースはル・マンです。作中で説明もあるがル・マンは24時間にも及ぶ耐久レース。このレースでは車が速く走るということと同じかそれ以上に、長時間にわたって走り続けるということが必要なのです。つまりメカニックによる整備ですね。整備とか地味じゃん、全然アゲアゲじゃないじゃん、と思われるかもしれないけどそういうこと言う奴にはビンタだ。往復ビンタですよ。車が格好良くアゲアゲで走るためには最高の整備が必要なわけでそこをリアリティを持って描写するためにはいかにマシンを最高の状態に仕上げるかというメカニックのシーンは絶対に必要だろうということなんですよ! だが本作にはその部分があんまりない。全くとは言わないがあんまりない。そもそもがル・マンに限らず耐久レースというのはその名の通りに如何に走り続けるかの勝負なんだよ。いくら最高速度が時速500キロくらい出たとしても30分しか走れないマシンでは勝てないのだ。そういう目線が軽視されていたと思う。
GT40の開発中は設計だったり整備だったりのシーンはそれなりにあるんだけれどレース中はピットクルーの仕事があんまり見えてこないんですよね。速く走る箱としての車はこれでもかと映すけれどエンジニアリングとしての車の美しさや素晴らしさを感じるシーンがあんまりなかったことは残念です。まさに仏作って魂入れずな感じがする。その辺がいまいちノレなかったなぁ。作中で「車の美しさなら負けだった」とかいうセリフがあるんだけれどそう言われるフェラーリだって別に優雅な車を作ったわけではなくて24時間にも及ぶ戦いに耐えられるタフな車という前提で作っていたはずなのだ。
あと他の文句としては本作は『フォードVSフェラーリ』というタイトルだが実際にはVSフェラーリというよりもVS社内派閥とでも言った方が良い内容だったことだろうか。俺は先述したようにチームとしてのフォードVSフェラーリを観たかったのだがその辺は余り描かれない。フォード側の現場で指揮を執るマット・デイモンとドライバーのクリスチャン・ベイルのコンビが作中で主に対立するのはフェラーリではなく同じ陣営であるはずのフォードの上層部である背広組たちなのだ。何となく理由は分かる。フォードとフェラーリの車の性能差や細々としたエンジニアリングの違いを描いても喜ぶのは一部の車オタクだけで、ツナギを着た現場の技術者たちとスーツ姿の本部のお偉いさんとの対立構造にした方が多くの観客が感情移入できるからだろう。別のその選択をことさらに批判する気はないがつまんねぇ構図にしやがったなぁという気持ちはある。きっと悪辣に描かれたフォードの副社長とか事実以上に嫌な奴として描写を盛っているに違いない。
なんか文句ばかり言ってる気もするが面白くはあったんですよ。いわゆる男のロマン的なものには満ち溢れているから主人公たちに対して、バカだなぁこいつらと思いながらも応援したくなる気持ちはあったし、エンジン音とかすごい心地よかったしね。ポルシェ356をスクリーンで拝めたのも眼福で良かったです。
ポルシェといえば上にも書いたがル・マンは耐久レースなのでその面ではやっぱポルシェ凄いんすよ。ちゃんとメカニックの下支えを描いてくれるなら80年代のポルシェ編とかも観てみたいもんですよ。
7000回転のシーンとかはほんと熱くて好きですよ。
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