もうタイトルからしてアレな『キラー・ナマケモノ』なわけですが、なんでこんな映画(こんな映画)が新宿のど真ん中のシネコンでかかってるのか分からんけどそういやプーさんも同じシネコンで上映してたからこの手の安ホラーには劇場関係者を狂わせる何かがあるのかもしれない。新宿ピカデリーの担当者がちょっとおかしいだけなのかもしれないという可能性もあるが…。
まぁなんにせよ『キラー・ナマケモノ』という珍妙なタイトルから連想するようなC級・D級、Zまでは行ってるかなぁ…いやそこまでではないかなぁというくらいの作品だったのは間違いない。まぁストレートに言うとクソ映画である。同じ邦題の傾向というか、結構SNS上で話題になっていたから二匹目のどじょうを狙った感があるのだが昨年公開された『キラー・カブトガニ』もそうだったように本作も悪ふざけと悪ノリにまみれた低予算ホラーだったわけである。だったわけである、とかじゃなくてそんなもんタイトル見ただけで分かるだろと言われたらまぁそうですね、としか言いようがないのだが…。
お話は何かパナマあたりのジャングルで密漁されたナマケモノが実は世にも恐ろしい殺人ナマケモノで、そのナマケモノを成り行きでゲットというか盗んだ主人公の女子大生が大学の寮にそのナマケモノを連れて帰り、そこで惨劇(笑)が巻き起こる、という映画である。
ま、それだけ書くと殺人鬼役がナマケモノであるという珍奇な部分以外はアニマルパニックホラーとしては常道というかよくあるノリの映画ではある。だが本作が特に面白かった(特に、とまで言う程かどうかは微妙だが…)点としては、作り手側の視点のちょっと引いた感じのクレバーさが面白かったところとして言えるのではないだろうかと思う。というのもメタフィクショナルな目線というか、映画全体をその外部から俯瞰しているような目線が徹底している映画だったと思うんですよね。本作の類似作として上記した『キラー・カブトガニ』でさえ何の変哲もないカブトガニが殺人生物になった理由として放射性物質を浴びた副作用で巨大化したとかそういうリアルかどうかはともかくとして理由付けはあるわけですよ。でも本作では問題のナマケモノがなんで人を殺せるほどの力を持っているのか、銃で撃たれても平気なのはなぜなのか、なんでナマケモノなのにスマホを操作して車を運転することさえできるのか、といったことに対しての説明は一切ない。ゼロである。
この“何でそうなるのかは分からないけどそうなる”というのは高度な皮肉として成立していて、例えば作中ではアメリカのスクールカースト上でのクイーンビー的な女王様が寮を支配していて誰もそれに逆らえないとか、SNS上の承認欲求に狂っていいね! の数をどこまでも求めてしまうとか、そういうよく分かんないけどそういう風になってしまうという人間社会の悪癖のようなものと比較、対象化されるようにして描かれるんですよね。そういう意味では激安おバカホラーの体を取りながら、その枠内で嘘の中にある現実を浮かび上がらせる風刺作品ではあるんですよ。
じゃあホラー映画として面白いのかというと、別に面白くはないけどな!!
別に完成度の高いホラー映画ではない。でもにやにやヘラヘラしながら観ちゃうし、中々上手い見立てをしているなー、と感心してしまうシーンすらある。そういう意味ではそこそこ楽しめるくらいの映画ではありますよ。個人的に自己言及的な皮肉としてサイコーだったのは、終盤で寮母のおばさんが「人生は思ったよりも短いから私みたいに下らないことで時間を無駄にしないようにね」というようなことを主人公に言うのだが、それってこの映画を観てる時間のことですよね!? としか思えなくて爆笑しちゃったな。多分そういうセリフも意図的に配置されてるような、そういう映画だと思いますよ。まぁだからといって面白い映画ってことでもないのだが…。
そんな感じの映画でしたね。個人的に一番好きだったのはナマケモノくんがシャワーの温度調節をするシーンで、ここは熱湯コマーシャルを彷彿とさせて楽しかったですね。しかしこんな映画撮る金あるなら野生動物保護団体に寄付しろと思うが、それはそれとして割と好きな映画でした。好きだけど別にそんなに面白くはないと思います、はい。