ヨーク

ザ・タワーのヨークのレビュー・感想・評価

ザ・タワー(2022年製作の映画)
3.2
フランスは今団地映画が熱い! と一部界隈では噂されたりされてなかったりする昨今ですが、この『ザ・タワー』も団地映画なので直近のフランス団地映画である『リンダはチキンがたべたい!』がめちゃくちゃに面白かった俺としては是非観なければなるまい! と終映が近そうな本作のために映画館へと駆け込んだのだが、まぁスコア的にも分かるようにそんなに面白い映画ではなかったですね。かといって全く見どころのない完全無欠のクソ映画とかでもないので、正直それくらいの中途半端なつまんない映画が一番感想文を書きにくいんだよ! というところもあるのだがまぁ観ながら思ったことをつらつらと書いていってみようか。
お話はシンプルにしてベタで、様々な経済状況(といっても上はせいぜい中の中くらいで基本は貧乏長屋っぽい)で様々な人種の人々が暮らすパリの郊外にある団地が舞台なのだが、ある朝その団地は現実世界とは違う異世界的な場所へと行ってしまったことに団地の住人が気付くところから映画は始まる。窓の外や正面玄関の先にはどこまでも続く闇が広がっており、その闇へと飲み込まれるとその物体は消失してしまうらしい。エントランスで揉めていた者たちの片方の上半身がその闇へと飲まれると綺麗に上半身だけ無くなってしまった、という具合である。テレビやラジオの電波は届かずに携帯電話も圏外。何故か知らんが電気と水道は使えるがそれもいつまで保つか分からない。そんな異世界極限状況に置かれた100世帯くらいの住人たちがサバイバルを開始する、というのが本作のお話である。
漂流教室ならぬ漂流団地(なんかそんなタイトルのアニメ映画あったな)という映画なわけですね。22年の映画らしいのでまぁどストレートにコロナ禍の中のロックダウン生活に材を取った映画であろう。団地内という閉鎖的な状況でどんどん精神的に追い込まれていく人々の姿はコロナ禍中の人々の混乱と動揺と憔悴を描いたものとして寓話的ではあるのだが、なんつうか本作はそこから先へと続くような展開がなかったという感じでそこが残念でしたね。
お話的には白人系、アラブ系、アフリカ系などといった各グループに分かれてそれぞれの部族間抗争的な展開になっていくのだが派手なドンパチや殺し合いは描かれずに数カ月や数年単位の時間経過と共に各グループの力関係の変化などが描かれていくのだが、それが何とも地味なんだよな。どんどん追い込まれていって虫、というかゴキブリを養殖(ちょっと『こち亀』の両津を思い出した)して食うようになったり、猫や犬も食用に飼育するようになっていったり、挙句の果てにはどん詰まりなコミュニティの中で新興宗教的な思考停止するための装置を作り出して○○まで…という感じに団地内の人々の行動がエスカレートしていく様は中々面白いんだけど、正直展開が淡々とし過ぎていて盛り上がる部分が全然ないんですよね。群像劇としてもいまいち盛り上がりどころがないんだよ。
なんかダイジェストを観てるだけっていう淡白さで映画的な面白さはほとんどなく、全体的に画面が暗いのもあって中盤辺りはがっつりと寝てしまった。だがしかし、そんな感じで盛り上がりには欠けるものの雰囲気はかなりいい映画でもあったんだよな。もうちょい色んなイベント起これよという尻すぼみ感は凄かったが全体的な画作りとか雰囲気はいいんだよ。雰囲気とか空気感とか言われても凄くざっくりした感じで具体的に何がいいの? と言われたら答えに窮してしまうところはあるのだが、何か狭くて暗くて汚い団地の階段とかの雰囲気だけはいいんですよ! としか言いようがない。雰囲気は…雰囲気だけはいいんだ…。
まぁそこしかいいところはないとも言えるわけだが…好きな人は結構ハマる映画なんじゃないかなとは思いますね。わざわざスクリーンで観るほどのもんではないと思うが、ネトフリとかアマプラにあったらボーっと見る分にはいい映画なのではないだろうか。あらすじ説明のとこで書いたように電気と水道に関しては本当に雑な感じで使えちゃってるんだが、中盤以降に電気もダメになってろうそくが部屋を照らしている感じとかは本当に良かったですね。
ま、そこそこ面白かったです。
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