ペイン

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカのペインのレビュー・感想・評価

4.5
宇多丸さん言うところの

“人間の「正しくなさ」にも寄りそえるというのが物語やアートの効能”という言葉を地で行くようなそんな作品。

本当に正しくない人、正しくないことばかりが映される本作。それでも本作はそれを単に露悪的に描くことをせず、これ見よがしのグロに陥らないギリギリの一線を保っていたり、登場人物たちを平等な眼差しでチャーミングに描いているのが見てとれる。流石はインテリ監督ファティ・アキン。最初はこの題材をファティ・アキンが?とは思ったのだが観たらそれも合点がいった。

監督は『ヘンリー』と『アングスト/不安』を参考にしたそうで、たしかにシリアルキラーの描き方や距離感の取り方に近しいものを感じました。

それにしてもよくこんな人たちを集めてきたなという見事な顔選び、キャスティング。みすぼらしくわがままなボディーの娼婦たちも最初はゾッとするが、徐々に見慣れてきて愛着すら沸いてくる。歯並びガタガタ猫背の主人公を筆頭に整った美男美女はほぼ出てこない本作だが、やはり私は完全無欠な人間を称え描く映画より、近年で言うと『岬の兄妹』とかこういう駄目な人たちにそっと寄り添い肯定してくれる映画が好きです。

ホンカを演じた22歳の新星ヨナス・ダスラーによるクリスチャン・ベールも嫉妬するレベルの豹変ぶりや、あのバー(The Golden Globe)や主人公の部屋のディテールの再現度にも驚く。今年の忘れ難い作品の1つです。
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