コミヤ

フリーソロのコミヤのネタバレレビュー・内容・結末

フリーソロ(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「全ては崇高と完璧のために」

デイミアン・チャゼル映画の主人公のような狂人クライマー アレックス・ホノルドのドキュメンタリー映画。ヨセミテ国立公園にある絶壁"エル・キャピタル"をフリーソロ(命綱に無しの単独行)で挑む。

ジミー・チンの前作『MERU』同様ドラマチックな展開と映像演出に楽しまされた。本作は言うなれば、ジミー・チン本人も主要登場人物である『MERU』のスピンオフ作品。このような形でアウトドア狂人ユニバースを広げてほしい。

チャゼル監督作は夢追い人の狂気的なまでの衝動を肯定するような作品が多く、夢の成就の一方で恋愛、家族関係など私生活に亀裂が生じるような展開が多い。

本作の主人公アレックスも同様にフリーソロという競技に取り憑かれた狂人だ。エレンペイジ似の恋人がいるが、彼女と自身の挑戦なら迷いなく後者を選択すると公言している。しかし彼女はそんな彼の生き方を理解することはできなくても受け入れている。彼自身も人生を豊かにしてくれる彼女の存在に感謝している。

フリーソロ挑戦前夜、それを告げるアレックスと黙って話を聞く彼女。後部座席から撮られたそのシーンで彼女の顔は一切映り込まない。「あなたには寿命を全うする義務がある」と告げる彼女。それに対して間を置かず「そんな義務はない」と告げるアレックス。死の危険のない安全な場所で幸せな生活を送りたい彼女だが、彼にとってそんなのは幸せとは言えない。

撮影クルーも一流のクライマーで、アレックスと数々の苦楽を共にした仲間だ。フリーソロ中にそんな友人の死の映像を撮影することになるかもしれない。また撮影自体が彼の集中力を妨げることになるかもしれないという葛藤に悩まされる。

流石のアレックス本人も死の危険のあるフリーソロを前に、難所の数々、怪我、先人の死、彼女や友人の存在による葛藤に悩まされる。フリーソロには劇中の言葉通り"感情の鎧"が必要となる。

一度は断念したものの、挑戦が生への執着となっているアレックスは再び"エル・キャピタル"に挑む。

鑑賞者は、練習で何度も失敗した難所を通過する彼を撮影クルーと共に傍観するしかない。地面、頭上から撮影される生身の映像の迫力にこちらの神経も削られる。そして数々の難所を突破し、彼は笑顔で生還する。

彼の笑顔と彼女の真顔で終わるラストはホラー風味。つまり彼の挑戦は終わらないということは周りの人物たちは同じ恐怖をまた味わうことになる。

本作の面白さは構成や映像演出によるものも大きいと思う。彼が我々と同じ人間であることへの証明でもある食事シーンから彼のパーソナルな過去の回想への移行、アップからの引きで見せるスケール感などが良かった。涙からの雨は露骨過ぎて笑った。

コミヤ

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