MikiMickle

ラストナイト・イン・ソーホーのMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.0
デザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、母を幼い時に亡くし、祖母と田舎暮らし。60年代のロンドンへ憧れを抱いていた。

そんな中、ロンドンカレッジ オブ ファッションに見事合格し、ソーホーへと引っ越す。夢に溢れた新生活だったが、引っ込み思案の彼女は大学の寮に馴染めず、いじめを受けてしまう。耐えきれず寮を出る事に決めたエロイーズは、老婦人の暮らす一軒家の屋根裏を間借りする事に。

その夜から、エロイーズの夢に、サンディ(アニャ・テイラー・ジョイ)という女性が現れる‥‥‥
‥‥時は60年代中盤。歌手を夢見てロンドンに来たサンディは、美しく子悪魔的で魅力に溢れていた。美しく歌い、夜の町に夢を求め‥‥

まるでその場にいるように、時にサンディが自分であるかのようにシンクロする夢。
その幻想に取り憑かれ、サンディが輝くほどに自らも輝いていくエロイーズ。髪をサンディのようにブロンドに染め、自信をつけていく。サンディはエロイーズのミューズともなり、彼女から影響を受けたドレスのデザインも周りから評価されていく。
全ては順風満帆に見えた。サンディもエロイーズも。しかし‥‥‥

2つの世界がからみ合い交差し、狂気の物語と発展していくサスペンスホラー。


監督がエドガー・ライト!
大好きな監督で、彼が関わった作品は多分全部見てるはず。
ライト監督といえば、ダメダメなオタク男子がとりあえずわちゃわちゃ頑張って、それを認めてくれる女子が奇跡的にいて‥的なイメージは拭えないし、事実、それ率が高い(笑) そんな彼が女性を主人公に?! しかも正統派ホラー!? となれば、不安と期待しかない!!
そして、その期待を裏切らず、素晴らしい作品だった。

まず、これは60年代を舞台にしたミュージカル映画か?と思わすような演出から、現代が舞台であると気付かされるヘッドフォンの小技の効いた冒頭から始まり、
前半のきらびやかな盛り上がりから後半の転落への勢いが怒涛の様で、息つく暇がない。

イタリアの殺人鬼ホラーのジャッロを彷彿とさせるストーリー展開と映像美はダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァのそれと似ていて美しく、赤と青の色彩のどぎつさが作り出す緊張感と猥雑さが見事に映画愛を持って再構築されている。

交錯していく二人を映すめくるめくカメラワークには、恐怖のダンスを踊らされている様だった。エロイーズとサンディが入れ代わり立ち代わるダンスホールのシーンなど、まさに現実と幻想の混ざり合いの始まりとして申し分ない映像で、そのまま映画にトリップしてしまう。

それは、主役の二人の魅力もしかり。おとなしいエロイーズの変化も狂気に取り憑かれる様も、サンディの息を呑む様な美しさも妖艶さも。二人にどんどんと魅了されて、のめり込んでいく。エロイーズがサンディに憧れを抱いていくのと同じように、私もまたサンディの虜となっていく。

その魅力に引けを取らないのが二人のファッション。きせかえ人形の様に着替えるサンディの60年代ファッションと、感情の変化とともに劇的に変わるエロイーズ。かなり面白く、素敵。

音楽もまた良い! ライト監督の映画はどれも音楽が素晴らしいのだが、今作もまた素晴らしい。60年代スウィングに彩られ、華やかで繁栄を感じつつ、かつ哀愁と哀しみに溢れている。登場人物たちの心情を見事に表した歌詞と音は、ただの小道具ではなく、それぞれに個性を発揮している。
中でもアニャの歌う「恋のダウンタウン」は今でも心に残っている。その心情も、その後の事も‥‥

そして、誰にも理解されない狂気の負の連鎖の恐ろしさももちろんの事、よくぞここまで女性特有の恐怖をうまく描いたものかとも思う。
繁華街であるゆえに闇があるのはどの時代でもどの国でも必然だが、60年代のソーホーはその代表のひとつでもあった。女性蔑視や成功を得る為の性奉仕など、今でも根強く残っているその風習は、過去を遡ればのぼるほど深く、恐ろしい。鳥肌が立つほど恐ろしい。
一方で、男性目線の「だから清貧を極めようね」的な目線もまた恐ろしくもあるし、それを見越しての今作であるようにも思える。←これ、重要。

しかし、題名でもあり、哀しき事実の舞台でもあるソーホーは、ライト監督の実直で真摯で多色多彩な深い「愛」(例えばロンドン愛、イギリス愛、映画愛、音楽愛、人間愛、敗退者愛、酒愛、底辺愛などなど)によって、不可思議で心地よいスウィングと居心地の悪いアクセントと真に迫るビートを心に刻むのである。
MikiMickle

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