氷雨水葵

ナイル殺人事件の氷雨水葵のレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(2022年製作の映画)
3.8
2022年32本目

愛って怖いね

◆あらすじ
1937年ロンドン、私立探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)はとあるクラブを訪れていた。ジャズ歌手サロメ・オッターボーン(ソフィー・オコネドー)の歌声を聞きながら過ごしていたが、一際情熱的に踊っている男女に視線が移る。フランス上流階級出身ジャクリーン・ド・ベルフォール(通称:ジャッキー エマ・マッキー)と婚約者サイモン・ドイル(アーミー・ハマー)だ。そこへ、大富豪のリネット・リッジウェイ(ガル・ガドット)がやってきた。リネットとジャッキーは親友で、サイモンと結婚することを聞いてリネットは喜んでいる様子だ。

6週間後、ポアロはエジプトで休暇を満喫していたが、ピラミッドに登り凧を飛ばしているブーク(トム・ベイトマン)と再会する。ブークは、画家で母親でもあるユーフェミア(アネット・ベニング)とともに友人の結婚式に招待されたようだ。ブークの計らいでポアロも式に参列することになったが、現れたのはサイモンと・・・ドレスを着たリネットだったのだ。祝福ムードに包まれる会場だが、そこへ真っ赤なドレスを着たジャッキーが現れる。リネットは動揺しその場を去ってしまう。

ジャッキーは二人の結婚を祝福しておらず、嫉妬の炎に燃えエジプトまで二人を追ってきたのだ。その後、サイモンとリネット、式の参列者たちはクルーズ船に乗船しエジプト観光に。しかし、途中でジャッキーが乗船したことで、愛と嫉妬と欲望が複雑に絡み合う禁断のトライアングル・ミステリーの幕が開いてしまう―――。

◆感想
魅惑的なエジプトと豪華客船を舞台に繰り広げられる愛憎ミステリー!前回の雪×オリエント急行とはまったく違う雰囲気で、ピラミッドやアブ・シンベル神殿、ナイル川など神秘的なものの側で起こる殺人事件を描いています。

冒頭の戦争シーンが始まったときは何事かと思ったのですが、今回のテーマ''愛''を考えると必要と言えるシーン。ポアロと恋人の過去が描かれていて、『オリエント急行殺人事件(2017年)』でも度々名前が出ていたカトリーヌが生きていたころのエピソード。そして、ポアロが口ひげを生やしている理由もここで明かされます。

そして、クラブでのシーンは、今作でメインとなるキャラクターたちの紹介といった感じで、ジャッキーとサイモン、リネットの関係をまず観客に印象付ける演出。そして、エジプトでの結婚式のシーンでは、花嫁がジャッキーではなくリネットという驚きの展開。普通に驚きましたが、この後の愛憎劇を考えると、当然の流れなんですね・・・。
エジプトでのシーンは、ドキュメンタリーを見ているようで、エジプトの魅力が余すところなく映されています。観客が旅行している気分を味わえるくらい高画質で、上空からの映像はほんとうに素晴らしかった!こんなにもカメラワークに魅了される作品はない、と思うくらい神秘的で魅惑的。そんななかで起こる殺人事件とのギャップがたまらない!

ネタバレはしませんが、途中で犯人が分かっても楽しめるのがアガサ・クリスティー原作およびケネス・ブラナー演じるポアロの謎解きのいいところ。「だれが犯人だ?」って考えながら観客も謎解きできる要素があって、作中でヒントが出てくるたびにパズルがはまるような感覚に陥ります。ただ、すべての謎が解けたときには、複雑な気持ちになっていて、こんなにもすっきりしないミステリーはアガサ・クリスティーくらい・・・。いや、ケネス・ブラナー演じるこのシリーズだからか?テーマが三角関係だからそう思うのかもしれませんが、前作同様ラストはもやもや。ただ、個人的には今作のほうが好きです。

ポアロの過去や複雑な人間関係を、エジプトの神秘に触れながら堪能できる作品です。ずっと、ガル・ガドット演じるリネットが美しく、エマ・マッキー演じるジャッキーの嫉妬心あふれる表情に夢中になってしまいました。エマ・マッキーの目力が素晴らしく、女の嫉妬ってほんとに怖いと感じさせてくれる演技でした・・・。

原作を知らなくても楽しめる極上のトライアングル・ミステリーです。
氷雨水葵

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