菊尾

ミッドサマーの菊尾のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます


すごく興味深い映画だったんですけども、これカルト宗教のお話っていうよりも、どっかの部族に滞在しに行ってみましたみたいな事なんだと思うんですよね、感覚的にはそっちの方が近いのかなぁと。
劇中にもあるんだけど、そのどこがおかしいんだろう?っていう境界線が命に対する価値観が現代人と違うっていう。舞台となっているホルガでは役割を終えた人はその生命を大地へ還すみたいな考え方で、まぁ自死するという手段を用いているわけですけども、これも現代においてもある国は安楽死が認められていたりするわけだから、そんな遠い話でもないし、身体の中にある細胞自体だってアポトーシスっていう次に繋げるために自ら滅んで行く?っていう、日本も昔は姥捨山みたいな事もありましたもんねぇ。だからこの価値観自体に善悪はないんだけど、
秩序を保つためなら死をも厭わないっていうのはあって。その辺りが怖いのかなこの映画。

でも全部の確認は出来ないんだけど、描写がかなりエグかったりするんだけど、その方法も儀式めいてる部分が多いみたいですね。小屋の中で宙吊りみたいな描写もありましたが、あれも伝統に則って意味のある方法だし焼死もそうだし。
ただまぁ現代人を招く姿勢は持っていて、すごく牧歌的で穏やかな人達なんだけど、根幹は閉鎖的で招くのにもコミュニティ維持のためっていう理由があって。自分らの為に利用しているし、それを世間に公開されると不都合だからっていう魂胆も見え隠れしている所が、どっかの部族とかよりも宗教団体みたいな部分はあるのかなと。
だからブレンド具合が秀逸ですよねこの映画。

ホラー映画なのだろうけども、新しいですよねやっぱりアリアスター監督の映画は。上記のような大枠の怖さもありつつも、もっと明確で分かりやすい部分でもちゃんと怖いと思うんですけどね。みんな笑顔だし、白夜で暗くならないし(闇夜への原始的な恐怖心が薄まる)村には武器なんか見当たらないし自然と調和しているし手を繋いで踊ったりしてて、一見は楽園ムードなんだけど。

でも何かあると全員で感情を共有するんだよねこの人らは。悲しい事があった時に全力で全員で悲壮するみたいな。皆で全てを分かち合う、感情さえも。っていう事なんだろうけども、個性を潰すことだし、むしろ個性を持たせないようにしている意図さえ感じられましたね。強固な集団である為には個性は邪魔っていう。これは現代のどこかの国家にも通じている部分なんじゃないでしょうかね。
それと単純に一人一人、自分らの身内が姿を消していくってのもね。それもごく自然に、消えている理由も思いつくからメンバーもパニックになってない。でも裏ではもうこの世に居ないみたいなさ。巧みなんだよなぁ。

まぁしかし怖さと笑いってのは時に紙一重なものでもありまして、劇中の描写でも悲壮すぎて笑っている人も居ましたけども(笑)それとは別に性描写があるんだけど、ここでも皆で感情を一つに!っていう精神が出てきて喘ぎ声の大合唱みたいなシーンあってあれは笑ったなぁ異常なんだけどね!あれ普通あの状態じゃ男性機能は発揮されないと思うんだけど、まぁ事前もお香みたいの嗅がされてたし、飲み物にも何か混ぜてたし。全部仕組まれてるもんね。そこも怖いんだけどね。そういうブラックユーモアみたいのもあるもんね。畑から足出てるってあれも儀式か?ただ処理が雑だっただけなのか?そこも笑ってしまいましたなぁ~。

でもまぁ個人的にはラストは微妙かなぁ。そこへ行くまでの過程の中で主人公の一人もある女の子がある決断を迫られるんだけど、その選択からラストの感情までって物凄く単純なラブストーリーみたいな描写で、上手く行ってなかったんだけどそこに更なる追い打ちを見てしまって、あたし感情崩壊したからお前はぶっころ。みたいなさー。
これいいけど、ラストじゃなくて良くない?っていう。ラストはまぁ盛り上げてあんなシーンになってもいいんだけど、そこへ至る理由が、青春ラブストーリー的な、あれこれこんな映画だったっけ?みたいな。これまでのこの映画の歩みが哲学的でもあったり民俗学的見地から見ても面白いとか様々な見方が出来たのに、ラストそこなの?っていう。なんか順番入れ替えて、ラストはもっと考えさせてくれるもので締めてくれたら満足だったなぁ。最後のデザートだけ味薄かったね。みたいなのはちょっと感じたなー!いや悪くはないんだけど例えたら苺ケーキの苺だけ絶品でそれ以外は何これ、スポンジの部分パサついてない?生クリーム味がクドくない?的な。そこだけかなー。うん。

でも見たほうがいい映画だねこれは。圧倒的恐怖とかじゃないけど、ジワってくるタイプの隣人恐怖みたいなジャンルの怖さだと思うんで、まぁホラー映画好きはね、今後も監督は注目の人になるでしょうね。
菊尾

菊尾