セガール幹事長代理

サウナのあるところのセガール幹事長代理のレビュー・感想・評価

サウナのあるところ(2010年製作の映画)
3.5
海外の色んなサウナを紹介してくれるかと思いきや、まあ確かに電話ボックス型のギリギリ公然猥褻なサウナもあったけど、サウナという文明の利器と原始人みたいな全裸のおっさん達が織りなすアンバランスな身の上話で作品は構成されていた。

私が若い頃なんか、そもそもサウナなんて熱いし退屈な上に備え付けのテレビのザッピング権をおっさん同士がフルチンで奪い合う低俗な場だとさえ思っていたし、何ならアウトレイジみたいな人ばかりがファッションで利用するもんだと決めつけていたし、今でもその先入観はそんなに間違っていないと思っている。

しかし今作はそんな思いを一蹴する、とまではいかないけど、全裸で汗を流しながら誰にも言えなかった、というより伝える気もなかった心の霧を共有する様を淡々と映すことで、真の「整い」とはこういうもんだと、刮目せよ若造ども、と未熟な私に言わんばかりのものであった。

特に「俺は従軍中、苦しみを表に出さない訓練を受けてきた」というおっさんが「家族の死」「別離」というテーマで汗とともに涙を流す画は結構くるものがある。
私の尊敬する先輩が「女はどうにかなると思う時に泣くし、男はどうしようも無い時に泣く」って言ってて、なんかその意味がわかった気がしました。
というかこのおっさんの話自体、言い方は悪いがありきたりなもんで、文字に起こしてしまうと色んな映画や小説に慣れ親しんだ我々からすると退屈そのものかもしれないが、知らんおっさん同士で全裸で、時折ビールを楽しみながら、蓋をしてきたトラウマを吐き出す一連の流れは美しさすらあり、これが理想とすべきデトックス効果なんか、と不覚にもしんみりしてしまった。

ダイエットや美容目的とは一線を画す、サウナという特殊な場がもたらすコミュニケーションの恩恵を説教臭くなく伝える秀作と言えるでしょう。

以前池袋のサウナで出会い、女をテーマにした即席短歌大会やってくれて、挙句の果てにはウーハイ奢ってくれた知らないおっさんとまた会いたくなりました。

「髭伝い鎖骨の溝に寄せる汗 俺とお前の性比べ哉」
「むせ返る栄螺の肝に似た雫 脊髄震える夏の夕空」
「見上げると歪む眉間と漏れる息 妖しく重なる母の垂れ乳」
「糜爛糜爛を熟れたあけびになぞらえて 極楽探る山ほととぎす」
「それ柴田勝家のぱくってますよね」

こんなやりとりを知らない若者とした記憶のある方がいらしたら是非連絡下さい。貴方のお陰で今の私があります。一杯奢らせて下さい(二杯目からは自腹でお願いします)

熊みたいなおっさんも本物の熊も好きな人におすすめ。