ちろる

君の誕生日のちろるのレビュー・感想・評価

君の誕生日(2018年製作の映画)
3.9
玄関の灯がつくと、目を閉じてみる
君が帰ってきてるような気がして心が少し浮かれてしまう
ぶつけようのない怒り、ぶつけようのない悲しみ
自分だけが苦しんでるわけじゃないのに、誰よりも孤独な気がしてる
愛想笑いの仕方も忘れてしまった。

2014年4月16日、修学旅行中の高校生らを乗せたセウォル号が沈没し、多数の人が亡くなった。
この事故で、ジョンイルとスンナムは、息子のスホを失い、毎年スホの誕生日が来るたびに胸を痛める。
両親の苦しみはもちろんだが、妹の健気な存在感が涙を誘う。
父は事情により2年間家をあけていたが、久々に戻ってくる所から物語ははじまる。
妹は久しぶりに再会する父に戸惑いを感じ、おもちゃ屋で何でも好きなものを買ってあげると言われ、文房具を買ってもらうのだが、なぜ、その文房具を欲しがった理由が泣かせる。
一緒に行ったワッフル屋では、お兄ちゃんのがないと出されたワッフルに手をつけない。
スンナムが洋服をスホの分だけ買ってきた時ほがっかり感とあきらめ感。スンナムが取り乱すたびに必死にこらえる姿がけなげでせつない。
また、お兄ちゃんの水難事故は幼い妹にもトラウマとして刻み込まれ、潮干狩りで海に近づこうとしない彼女は未だに風呂に入ることさえ厭う。
そんな大きなトラウマを抱えた妹
息子を失った現実から目を背け、時間が止まった母
そして家族への大きな罪悪感を抱えて感情を押し殺す父
と、三者三様の苦しみがズドンとのしかかってくる。
亡くなった人の数の分だけ、いやそれ以上の数の悲しみがある。
母のスンナムはすっかり心が壊れて、遺族会からも距離を置いている。

生き残った、同年代の子たちは卒業して大学へ行って就職して結婚して、でもスホはいつまでも高校生で、あの教室に囚われたまま。
もちろんスンナムもそのまま。
夜な夜な大声で慟哭するスンナムに隣人のお母さんは何があっても、離れてかないし、徹底的に寄り添い続ける。
これは、他人がなかなかできることではないと、感心してしまう。

そういう周りの優しさと、理解があって、スンナムにも前に進む道が見えてくる。
それは、このままではいけないと、一歩進んだジョンイルの努力によるものでもある。
ジョンイルがスンナムの状況を理解し、遺族の会との橋渡しとなり、ジョンイルのある一言でスンナムは誕生日会に行く決意をする。
会には今もスホを想う人々が集まり、誕生日に再会する。
それぞれがスホの記憶を辿り、スホについて語る会に二人で出席することを決断。
頑なだったスンナムも、誰もが自分と同じように後悔と、哀しみを抱えているのだと知り心が溶かされていく。
深い悲しみには周りの共感が不可欠なのだということを思い知らされる。

中でもずっと耐え、我慢し続けてきたジョンイルが堰を切ったように泣き出すシーンは思わずもらい泣きしてしまった。
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