秀ポン

ミッション:8ミニッツの秀ポンのレビュー・感想・評価

ミッション:8ミニッツ(2011年製作の映画)
3.5
うわああああ!!!!!!
ってパニック状態で始まって、そのまま中盤までパニック状態で突き進んでいた。

観客を飽きさせないように新事実やどんでん返しを次々と投入し、主人公と観客を翻弄し続け、観客がその刺激の連続にすら飽きてしまう前にさっさと話を締める。こういう逃げ切りタイプの話は結構好き。

自分という存在への認識が根本から覆されてしまった主人公が頑張る話も好き。
虚構の存在に重みはあるのか?みたいな話も大好き。
要素だけ見れば人生ベスト級に好きになるポテンシャルがあるはずなのに、そこまでじゃなかった。
なぜ?

最も微妙に感じたのは、当初この世界をプログラムと捉えていた主人公がこの世界に重みを感じるようになる過程が描かれていなかったこと。
そのことについて考えると、そもそも虚構の存在の重み云々は主題ではない可能性が出てきた。
以下、2通りの見方を挙げる。

1.主人公の主たる動機は父親と和解出来ずじまいだったという心残りで、世界に重みを感じるというのはそれに従属した現象なのだ。
こう見れば、不満点の前半部分は解消できる。

この仮想世界で父親に何を伝えようと、今の自分は彼の息子ではないため、彼は自分の息子に愛していたことを伝えられたとは思えない。
そして当然現実の世界の父親に対しては何の救いにもならない。
それでも主人公は、父と言葉を交わすことは何か意味のあることなのだと信じたくて、その為に、この世界に重みがあるということを信じようとした。これはかなり感動的だ。

しかし、それなら「父親に伝えて」ってオペレーターに言えば良くね?ってなるので、この見方は成り立たない。

2.終わらない任務からの逃避というのが主人公の動機なのだ
もしくはこういう見方をすれば、どこにも辿り着かない列車が舞台であるということにも暗示的な意味が生まれる。
でもそういう話はそんなに好きじゃない。
「とにかく逃げたいので逃げ先は問わない、とりあえず重みがあれば良いや」そんな感じの適当な話に思えてしまう。
(死ぬよりはループし続けた方が良くね?って思ってしまうというのもある)

ループ物に準えて言えば、これは「何か目的のためにループから抜け出したい」という話ではなく、「とりあえず繰り返しがしんどいのでループから抜け出したい」という話である。


以上のことをまとめると

・虚構の世界の重みについての話として受け取るには描写が足りない。
・父親との和解の話としてみるとそもそも成立してない。
・終わらない煉獄からの脱出という話として見れば綺麗にまとまるけど、その話は好きじゃない。

という訳で微妙に感じてしまった。

しかし、逃げ切りタイプの話をこうやってとっ捕まえて色々考えるのは良くない気もしてきた。
ここにはダジャレにマジレスするみたいな悪趣味さがある。
うわああああ!!!っていうパニック状態のどんでん返しが楽しいし、終盤の一時停止演出がなんか感動的だった。それで良いのかも。
短い尺で逃げ切ろうという映画には優しい人間でありたい。

──その他、細かな感想。

・ずっと昔に予告で見たときから「8分間を繰り返して犯人を探す」っていうコンセプトがやけに頭に残っている。

・轢死のシーンが不細工に感じた。爆弾関係なく主人公の間抜けで死んだだけじゃん。
あのまま駅から立ち去っていれば主人公の生は8分を超えて続いていた訳で、それはある意味、最後のちゃぶ台返し(どんでん返しではなく)を先取りした展開になってしまう。それを防ぐためだけに殺されたように思えるし、それを防ぐ方法として、主人公が間抜けをかまして自滅するというのはあまりに稚拙に感じる。

・そもそもここは記憶の世界というにはあまりに自由度が高すぎる。主観的な記憶の世界というのであれば爆弾がどこに隠されていたかなんて確定してるわけがない。
これは博士達の説明とは矛盾する事態で、博士達もこの事態を認識している。にも関わらず博士は自説を疑おうとしない。なにこれ?

・オペレーターが主人公に同情的になる過程も不十分に感じた。
どんでん返しの段取りを最優先した結果、人物描写の方は雑になってしまったという感じ。その辺はある程度トレードオフで、しょうがないことなんだろうなと思う。
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