父権社会韓国での女性の生きづらさを描いていて、男だが主人公ジヨンに共感する部分が多い。
男性の観客の場合、もし自分がその女性だったらどう感じるか、という視点を持てるかどうかで感想は違ってくるだろう。
原作小説は2016年10月に刊行され、130万部という大ベストセラーになった。
それから3年後の映画化である。
原作は未読であるが、キム・ジヨンが精神の病を発症し、読者はその担当医師のカルテを読み進めることになるらしい。
映画ではキム・ジヨンだけでなく、その周囲の男女様々な人物を描くことにより、もっと広がりのある世界になったのではないか?
男性優位社会の韓国では、1982年の時点でも、女の子が生まれると母親は親戚中に謝りに回ったという。信じられないが。
そして、現代でも女性がトイレに入るときにまず最初にするのはカメラがないかチェックすることだという。盗撮し、それを男同士でシェアするケースが頻発しているかららしい。
このような社会で生きていて、女性にはいろんな理不尽さに耐えることが多いだろう。しかし、その忍耐にも限度がある。その限度を超えたとき、身体や精神に異変が起こっても不思議ではない。
ジヨンの場合、自分が母になったり、祖母になったり他人になってしまう。
解離性同一症の憑依型、俗に言う多重人格である。
夫の実家でこの症状が出る場面は衝撃的である。
俳優の演技も良い。
チョン・ユミは1983年生まれで、ほぼ同年代であり、ジヨンの鬱屈した心を深いところで演じ切っている。そして、ラスト、少し明るさを取り戻して、夫に向けたその表情が美しい。
また、ジヨンの母ミスク役のキム・ミギョンは、食卓を囲んでいるとき、ジヨンへの心ない言葉を発する夫へ強く反発するシーン、我が娘の病気の発症を目の当たりにした時の驚愕の表情など、全ての演技がいかに娘を深く愛しているかを全身で表現していて、素晴らしい。
韓国では、出産・育児でキャリアが中断する女性を「継断女」というらしい。
キム・ドヨン監督は現在48歳だが、女優を10年やった後、2人の男の子を育てるために中断を余儀なくされ46歳で韓国芸術総合学校に入学したという。まさに「継断女」であり、「わたしはキム・ジヨン」だと言う。
だから、自分の体験も随所に投影されていて、より説得力が増したのだと思う。
初めての長編作品だが、力量は充分である。
本作で描かれる男性優位社会は、日本でも共通する部分も多いだろう。
伊藤詩織さんのレイプ事件など、日本でも声を上げる人が出てきている。
どのような社会が女と男にとって良いのか、本作をきっかけとして考えてみるのも良いと思う。