涼

ユンヒへの涼のレビュー・感想・評価

ユンヒへ(2019年製作の映画)
3.9
 韓国の男性監督で、こんな優しい映画を撮る人がいるとは。内容からしても、てっきり女性監督だと思っていた。
 受賞スピーチやインタビュー映像を見ても、この映画そのものの穏やかな人柄がうかがわれた。

 レズビアンの映画だが、ゲイの映画に比べて非常に少ないように思う。「キャロル」「燃ゆる女の肖像」「アデル、ブルーは熱い色」などしか思い浮かばない。これも、映画制作者が男性優位であることと関係があるのだろうか?

 また、上記に挙げた映画ではどれも燃えるような恋愛が描かれるが、本作では直接には描かれない。実に抑制的であり、そこがこのジャンルの中でもユニークな点だろう。しかも主役の二人は中年女性なのである。

 韓国で高校時代ユンヒ(キム・ヒエ)とジュン(中村優子)は恋愛関係にあったが、親の反対もありユンヒから別れを切り出した。ジュンはその後小樽で暮らし、20年後ひょんなことから二人は小樽で再会するという話である。

 韓国も日本も家父長制が強いという点では同じであり、当時はレズビアンに対する偏見は強かっただろう。
 ユンヒは人目を気にし、罰を受けていると思って生きてきた。それは日本にいるジュンも同じ気持ちだったろう。
 その二人が周囲の助けもあり再会することによって、ユンヒは積極的に生きようと思うようになる。
 それまで暗い表情が多く、決して笑わなかったユンヒが、最後に笑顔を見せる。このラストシーンが実に良い。

 ナレーションや説明セリフがほとんど無いので、俳優の表情に語らせる場面が多いのだが、そこでのキム・ヒエが素晴らしい。彼女のいろんな表情を見られるだけで映画を見る幸せを感じることができる。
 この人はどんな人なのだろうと経歴を調べたら、若いときから多数の賞を受賞していることがわかった。最近の配信ドラマでは何と「愛の不時着」を視聴回数で上回ったとか。大女優ではないか。

 韓国サイドの俳優は皆上手かった。ユンヒの娘、そのボーイフレンド、元夫、兄。特に前二者の明るさが本作を深刻さから救っていて、いいアクセントになっている。
 これに対し、日本サイドに関しては設定も演技も今ひとつだった。
 ジュンはユンヒと会って生き方が変るのか、リョウコ(瀧内公美)との関係を発展させるのか示されない。ユンヒの変化だけ描いて、ジュンのことは描かないのであれば片手落ちだろう。
 そしてジュン役の中村優子だがキム・ヒエとは明らかに演技力に差があるように思えた。これは残念。

 キム・へウォンの音楽は、本作の優しくて前向きになれる雰囲気に合っていて、良い。
涼