旅するランナー

淪落の人/みじめな人の旅するランナーのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
4.6
【家政婦は夢見た】

半身不随の中年男とフィリピン家政婦。
男は絶望の淵に生き、女は写真家になる夢を諦めていた。
四季が巡る中で、寄り添う二人の誠実さが、しみじみと描き出されます。
お互いへの優しさが、僕たちの心にそっと伝わり、涙がとめどなく溢れ出します。

原題「淪落人」は、白居易の「琵琶行」の一節が基になっています。
同是天涯淪落人/ 同じく是れ天涯淪落の人
相逢何必曾相識/ 相い逢う何ぞ必ずしも曾て相識らん
ともに落ちぶれ地の果てを流浪する者。
偶然の巡り逢いは、かつての知り合いである必要はない。
ドリーム・ビリーバーとドリーム・ギバーが出逢う夢物語。
コロナ禍で張り詰めた心を、優しく解きほぐしてくれるようです。

そして、香港の街中に咲く木綿花。
季節は巡って花は落ち、棉のように漂って、新たな場所で種子となって根を下ろす。
そんな自然の風景を見事に人生に投影する、新人とは思えない女性監督オリヴァー・チャンの、美しい夢はまだ続きそうです。